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実話を元にした衝撃作、映画『運び屋』を考察【あらすじ、感想、ネタバレあり】

言わずと知れた巨匠クリント・イーストウッドが『グラン・トリノ』以来10年ぶりの監督兼主演を務めた本作

ちなみに2019年に88歳となったイーストウッドの映画出演は2012年の『人生の特等席』以来のこと。

彼が製作し、演じた”運び屋”の姿に対する期待も高く、世界での興行収入は1億ドル超え

そんな『運び屋』の感想を紹介していきます。

『運び屋』の作品情報とキャスト


運び屋(吹替版)

作品情報

原題:The Mule
製作年:2018年
製作国:アメリカ
上映時間:116分
ジャンル:クライム、ドラマ

監督とキャスト

監督・主演:クリント・イーストウッド(アール・ストーン)
代表作:『グラン・トリノ』『ミリオンダラー・ベイビー』

出演者:ブラッドリー・クーパー(コリン・ベイツ)
代表作:『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』『アリー/ スター誕生』

出演者:ローレンス・フィッシュバーン
代表作:『アントマン&ワスプ』『マトリックス』

出演者:アンディ・ガルシア(レイトン)
代表作:『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』『トリプル・リベンジ』

出演者:マイケル・ペーニャ
代表作:『アントマン&ワスプ』『ホース・ソルジャー』

出演者:アリソン・イーストウッド(アイリス)
代表作:『タイトロープ』『目撃』

『運び屋』のあらすじ

自宅を差し押さえられたアール:IMDb

商売に失敗し、自宅は差し押さえられる寸前の孤独な90歳の男アール・ストーンは、仕事を何よりも優先し、妻と二人の娘を放ったらかしてきた

そんな彼にあるとき車の運転をするだけの仕事が舞い込む。

破産寸前の彼は、自分にもできる簡単な仕事に歓喜するが、その仕事とは、麻薬の運び屋だった。

大量のドラッグを運ぶ彼に捜査官が迫り来る……。

『運び屋』の3つの注目ポイント

警察に話しかけられるアール:IMDb

1.実話を元にした映画

本作は2014年に「ニューヨーク・タイムズ」に掲載されたサム・ドルニックの記事が元ネタとなっています。

実話を元にしたとは思えない衝撃の内容から最後まで目が離せません。

2.人生で大切なことを教えてくれる

運び屋をしていた男の事実に基づく内容から、人生で大切なことを教えてくれる作品になっていました。

90歳を迎える男が語る教訓は、説得力に満ち溢れています。

3.観る者の正義に問いかける

本作は、男の一生から視聴者への問いかけがされている作品です。

最大の見せ場であるクライマックスのシーンで、見せる表情と家族との繋がりに思うところがありました。

『運び屋』の感想 ※以下ネタバレあり

仕事をするアール:IMDb

イーストウッド監督は、『硫黄島からの手紙』(2006)以降、積極的に事実に基づく作品を手がけてきました。

本作も彼の得意とする実話を元にした作品でありながら、観ている人に大きな命題を与える内容となっています。

このイーストウッド監督の手腕に唸らされました!

それでは詳しい感想を書いていきます。

孤独な男の贖罪

まず、本作について書いていく上で重要なことが、主人公となっているアール・ストーンという男。

彼についておさらいです。

アール・ストーンという男

・家族よりも仕事を優先し続けてきた

・長女の娘アイリスの結婚式にも出席しなかった

・妻とアイリスと疎遠状態にある

・ときに破天荒で能天気、目立ちたがり

・貯金は無く、事業が立ちいかなくなり、家は差し押さえられた

以上がアール・ストーンという男の紹介になっていました。

そんな彼がある男から仕事を紹介され、知らぬ間に麻薬の運び屋となります。

彼が、”運び屋”として大金を稼いでいく中で、家族との失われた時間を取り戻していくということが本作のテーマ。

つまり90歳になった男の贖罪とも取れる内容となっていたことが印象的でした。

価値観の変容を描く

これまでの家族に対して何の恩も与えてあげられなかった男が、家族へと受け入れられる男に変わっていく様子を描いていました。

以下、象徴的だったシーンを具体的に2つ紹介していきます

時代に対する価値観の変化

「インターネットはくだらん」

「インターネットに(自身の園芸農場が)潰された」

と言っていた彼は、運び屋をする上で必要なメールの方法も知りませんでした。

しかし、仕事を順調にこなしていくと、

「電話でもメールでもどんどんやってやる」と言います。

これはデジタル化に逆行してきた男が、時代の流れを受け入れた象徴的なシーンでした。

家族サービスの変化

そして何よりも、運び屋としての仕事で得た大金によって家族に対するサービスは大きく変化しました。

・娘に豪華な花をプレゼントする。

・娘のパーティーの為にバーを貸切する。

といったサービスを初めとして、家族へのサービスをどんどん行うようになります。

そして、このことを象徴する重要なシーンがアールが最後に仕事ではなく、家族を優先するというもの。

麻薬組織のボスが仲間によって殺害されたことで体制が変化し、能天気に麻薬の運搬を行ってきた彼のスタイルは規制されます。

さらにこれまでの中でも大きな仕事となる数百キロにも及ぶ麻薬の運搬ということもあり、アールは時間厳守が絶対であり、寄り道をすることは許されない状況にありました。

そんな彼の元に娘から一本の電話が届きます。

「お母さんが倒れたわ。一年前なら何とかなっただろうけど、もう先は長くないって…。」

という内容のもの。

外せない重要な仕事を前に、

「どうしても帰れないんだ……。」

と断るアールでしたが、最後には仕事を投げ出し、家族の元に帰ったことで、アールは妻の最期に立ち会うことができました

これまで仕事を最優先してきた彼が命を顧みずに、妻の看病を行うアール。

電話もメールも溜まっていきますが、彼は最後まで妻の元を離れず、「今までの全てのことを許して欲しい」と妻に語ります。

これを聞いていた長女の娘も彼のことを許すのでした。

なぜ価値観の変容を描いたのか

以上のような具体的な内容から分かる通り本作は、アールの価値観の変容を描いている作品でもあります。

実際にイーストウッド監督自身も、「昔は当たり前の価値観だったことも、アップデートしていかなければ、ただの嫌な奴になってしまう。」と語っていました。

時代によって価値観は変化していくものですが、本作では過ちの全てを時代の責任にはしていません。

だからこそ本作で、アールは贖罪を行っていくのでしょう。

彼は決して自分を正当化しようとはしていませんでした。

とはいえ、変化し続ける価値観の中で、自分が間違っていたことを認め、謝罪することは決して容易なことではありません。

なぜならそれは自分のやってきたこと、人生すらも否定することになるからです。

そんなことに向き合った男の姿に大切なことを教えられました。

お金で手に入れられなかったもの

本作でお金は大きな影響を与えており、アールが失った大切なものをお金で解決していくシーンがありました。

具体的には、

・差し押さえられた自分の家

・古くなった自分の車

・娘の結婚パーティーをするバーの貸切費用

・美しく豪華な花のプレゼント

・行きつけの店の修繕費用

上記で挙げたようなものを全部をお金で買うことができたアール。

しかし、最後のシーンで捜査官であるコリン・ベイツに逮捕されたアールは、

家族との時間だけは買うことができなかった

と言います。

妻には、「一緒にいるためにお金なんて必要ない

とも言われていたアールは気づくのが遅すぎたことを嘆いてました。

だからこそ、コリン・ベイツとカフェで隣同士に座った際に、

「家族サービスは大事だ」

「俺は仕事を優先したばかりに娘と12年も疎遠状態になってしまった」

と語るのです。

悲壮感に満ちた男の後悔が、重厚なメッセージとなって響いてくるシーンでした。

本作と実話との違い

妻と話すアール:IMDb

クリント・イーストウッド自身を投影している

80歳代でシナロア・カルテルの麻薬の運び屋となった第二次世界大戦の退役軍人であるレオ・シャープの実話に基づいている本作。

レオ・シャープは、逮捕された当時は87歳で、その後90歳でこの世を去ります。

その為映画化に当たって、実際に運び屋をやっていたレオの経歴や素性についてイーストウッドは知ることができませんでした。

その為、不明だった部分をイーストウッド自身の過去と重ね合わせたのです。

ちなみに彼は、2度結婚をしており、子どもは7人います。

2人の妻と3人の愛人との間に子どもをつくったという経緯があり、長女であるアリソン・イーストウッドが幼い頃に家を出ています。

その後、イーストウッド監督作品である『タイトロープ』(1984)で11歳で妹の面倒を見る役をアリソンが演じたり、『目撃』(1997)に出演したりしています。

撮影時87歳だったイーストウッドは、本作の題材となったレオという人物と自身の人生と重ね合わせ、「一人旅が好きなことも共通点だ」とも語っていました。

本作は、イーストウッド本人の家族へメッセージともいえる作品として完成していたといえるでしょう。

役者としてクリント・イーストウッド

美女を肩に抱くアール:IMDb

今となっては監督であり、『夕陽のガンマン』(1965)『ダーティハリー』(1971)などの寡黙なガンマンのイメージが強いクリント・イーストウッド。

しかし、彼の私生活も反映した作品は数多くあります。

『タイトロープ』(1984)では、アリソンと共演し、シングルファザーでありながら娼婦と遊ぶ男。

『白い肌の異常な夜』(1971)では、女学園の生徒で遊ぼうとするが、結果的に滅茶苦茶にされる南北戦争帰りの北軍元兵士。

『マディソン郡の橋』(1995)では、メリル・ストリープと共演し、家族が遠出している間の4日間に主婦と情事を繰り広げる写真家。

以上の作品だけでなく、自身の性格であるどうしようもない女たらしという側面もこれまで演じてきています。

これが「俺はまだまだやれるぞ、お前はどうなんだ」というような次世代の問いを感じつつ、尊敬される人物でありながら素性を隠さない彼のカッコ良さを感じました。

『運び屋』に対する批判

妻の最期を看取るアール:IMDb

絶賛してきましたが、本作には批判も寄せられていたことは事実。

この点についても具体的に2つ紹介します。

差別主義的な思想

メキシコ系マフィアを「白人の店にタコス野郎が居るから周りが見ているんだ」と語ったり、タイヤがパンクした黒人に対して「ニグロ」という言葉を使う場面があったりしました。

確かに一見すると、イーストウッドの差別主義者なのではないかと捉えられる場面です。

しかし。彼自身が廃れていった老人を演じる役柄において変容していく価値観を受け入れられない愚かな老人を示すことが、アールに根付いた差別思考になっていたのではないでしょうか。

実話の中に巧みに盛り込まれたメッセージ

仕事を引き受けるアール:IMDb

クリント・イーストウッド監督は、ノンフィクションの中に自分の主張を盛り込んで作品を完成させる巧みな手腕を持っています。

本作での物語以外で、描いていた主張として象徴的なものが3つありました。

1.巧みな情景描写

物語の内容だけでなく、本作は見事な情景描写もありました。

私が気づいた点をいくつか紹介すると、

・仕事を引き受けたアールの顔が半分黒い影になっている。
→これから起きる不吉な出来事の暗示。

・最後の逮捕シーンで、反対側の道路は、どこまでも続いていたこと。
→アールが道を間違えたことを暗示している。

このような情景描写として説得力を与えてくるからこそ、実話でありながら重厚なメッセージとなるのだと思いました。

2.難解な命題の提示

本作における正義とは何でしょうか。

90歳の男が麻薬の運び屋となったおかげで、家族との関係を修復し、彼は罪滅ぼしをすることができました。

彼は法を犯したので、裁かれることは当然です。

しかし、アールは家族を喜ばせたい一心であり、しきりに、これまでの人生を嘆いています

刑務所に送られたとはいえ、面会に来てくれる家族がいて、幸せな最期を迎えることができたとも考えられますが、彼の人生を考えると心に穴が開いたような気持ちになりました

3.自身の人生訓を語る

寄り道しながら、任務を成功させていく彼は、常に冗長的に人生を謳歌しているよう。

仕事でも寄り道をし、人を手助けしたり、時間ぴったりに行動しなかったりします。

このことはイーストウッド自身の人生訓を伝えているよう。

肩に力を入れすぎないことも彼が伝えたいメッセージの1つに思いました。

『運び屋』を観た人におすすめの作品

ここまで『運び屋』を徹底的に解説してきました。

ここから本作を鑑賞した人に向けておすすめ作品を紹介です。

私自身がクリント・イーストウッド監督の大ファンでもある為、絞りきれませんが、以下の作品は確認しておくべきだと断言できます。

『荒野の用心棒』(1964)

荒野の用心棒

『夕陽のガンマン』(1965) や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ
』(1984)などのセルジオ・レオーネ監督が手がけた本作。

クリント・イーストウッドとの名タッグが織りなす西部劇は必見です!

『グラン・トリノ』(2009)

グラン・トリノ

数々の名作を世に送り出し、多くの賞を受賞してきたクリント・イーストウッド。

彼が主演にして監督を務めた本作は、次世代への後継を描く彼のキャリアで重要なマイルストーンとなった作品です。

また2000年代以降の作品でもあるため、古い作品に抵抗感がある方も親しみやすい作品になっていると思います!

あらすじとネタバレを含む『グラン・トリノ』(2009)の詳しい感想や解説を知りたい方はこちら↓

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