
映画監督・俳優養成スクール「ENBUゼミナール」のプロジェクトで製作された『カメラを止めるな!』は、無名の俳優と低予算というビハインドを抱えていました。
しかし、劇場公開されると口コミを中心に話題となり、2館という小規模での上映館数が220館を超えました。
そんな劇的なヒットを生んだ『カメラを止めるな!』の感想を紹介していきます。
目次
『カメラを止めるな!』の作品情報とキャスト
作品情報
原題:カメラを止めるな!
公開年:2017年11月4日
製作国:2017
上映時間:96分
ジャンル:コメディ、ホラー
監督とキャスト
監督:上田 慎一郎
作品:『お米とおっぱい。』『恋する小説家』
出演者:濱津 隆之(日暮隆之)
出演作:『夏風邪』『残響』
出演者:真魚(日暮真央)
代表作:『検察側の罪人』『ちょっと今から仕事やめてくる』
出演者:しゅはま はるみ(日暮晴美)
代表作:『ラブ&ポップ』『わが母の記』
『カメラを止めるな!』のあらすじ
何があっても撮影を止めない日暮隆之:IMDbより
ゾンビ映画を撮影するために町から離れた廃墟に集まったキャストに本物のゾンビが襲来する!
突然の出来事に戸惑うキャストであったが、リアルを追求する監督は、撮影を続行するが…。
『カメラを止めるな!』3つの見どころ
血糊にまみれる松本逢花:IMDbより
見どころ1:個性豊かなキャラクター
次々に登場するキャストはどれも個性的なキャラクター。
作品が進むにつれて登場人物に感情移入し、自然と応援してしまう登場人物に注目です!
見どころ2:ゾンビ映画の定番を踏襲している
あくまでもゾンビ映画に終始している本作は、名作へのリスペクトを感じる要素が多くありました。
この点についてもゾンビ映画の歴史を省みると成功要因に気づかされます!
見どころ3:観る人を裏切る脚本
ネタバレ厳禁と強く言われてきた通り、観る人を驚かせる脚本構成が見事!
「最後まで席を立ってはいけない」というハードルも越えてくる魅力が詰まっていました
ネタバレあり!『カメラを止めるな!』の感想
『カメラを止めるな!』の革新的な脚本について
松本逢花に檄を飛ばす日暮隆之:IMDbより
キャッチコピーは「最後まで席を立つな。この映画は二度はじまる。」
このコピーが示す通り、「カメラを止めるな!」は見事なまでに2部構成になっていました。
ある意味本作はネタバレ厳禁と言いつつも、2部構成になっているということが分かれば、映画の大方は理解できたようなもの。
『カメラを止めるな!』の2部構成:①
1部は「ONE CUT OF THE DEAD」というツッコミどころ満載の一発録りのゾンビ映画です。
お世辞にも素晴らしい作品とはいえず、語弊を恐れずにいうと”ひどい”完成度の映画をひたすら観せられるので「失敗作かな……。」と思ったのは私だけではないはず。
『カメラを止めるな!』の2部構成:②
2部は「ONE CUT OF THE DEAD」製作過程を追うドキュメンタリー映画です。
何故この映画を製作したのか、どういう経緯で作られたのかに迫り、話は1ヶ月前に遡っていくのです。
以上の2部構成だということを頭に入れておくことが、『カメラを止めるな!』は何故面白いのかを考える上で重要な要素となります。
『カメラを止めるな!』の成功要因に迫る
ネタが分かってしまえば、「なんだ、そんなことか」とも思ってしまいそうですし、2部構成というだけでは革新的ではありません。
なぜなら映画では2部構成になっている映画は既に数多くありますし、ゾンビ映画でいうと『28週後...』もある意味では、2部構成とも捉えることができます。
では、なぜ面白いのか。
それは、
■ゾンビ映画
■ドキュメンタリー映画
■ドラマ映画
それぞれの良いとこ取りをした映画だからだと思います。
これらの作品の肝となっている3つの要素を詳説していきます。
1.ゾンビ映画の魅力を踏襲した
ゾンビはジョージ・A・ロメロ監督が1978年に『ゾンビ(1978)』を公開してから、これを元にして次々に作品が作られていきました。
なので、ロメロ監督の『ゾンビ(1978)』以外はオマージュと言ってもいいかもしれません。
一気に人気が拡大していったゾンビ映画ですが、その後、ルチオ・フルチ監督作品『サンゲリア(1979)』に代表されるような粗いゾンビ映画を愛でる流れが生まれました。
このようなゾンビ映画の特徴を3つほど例示すると、
8ミリフィルムでの撮影であり、ハイビジョンでは無いため、古臭く感じる。
2.内容が粗い。
理由もなく、人が死に、メッセージ性に乏しい場合もある。
3.異常にグロい。
血と残虐シーンだけには気合いが入っている。
視聴者もそれが観られれば満足なので、中途半端は嫌われる。
以上のような特徴があるかと思います。
さらに定番となる要素が幾つもあるのですが、長くなるので割愛します。
このような歴史を踏まえた上で、『カメラを止めるな!』に盛り込まれていた”ベタなゾンビ映画”の要素を上げてみます。
走らないゾンビにも関わらず、なぜか追い込まれるヒロイン。何もない平坦な道で転び、基本的に車のエンジンはかからない。
原因は様々だが、何故か外部との連絡が途絶える。稀に電話線を切ってくる強者ゾンビも存在する。
本作でもヒロインは薄着で身体のラインがはっきりと分かる。ゾンビ映画では、何故か女性キャラは薄着が定番。
定番要素を踏まえており、内容としてもツッコミどころ満載。
そのため本作も間違いなく前者のメッセージ性を重視した作品ではなく、後者の愛すべきゾンビ映画として完成しています。
登場人物も少なく済み、凝りに凝った特殊メイクも必要ないので、ゾンビ映画自体が比較的に低予算で製作可能です。
酷い内容でも一定数のファンを獲得しやすいという前提。
これは映画ファンではなくても、刷り込まれている共通認識となっています。
このことを踏まえた上で、敢えてベタなゾンビ映画の撮影現場という設定になっているのでしょう。
2.ドキュメンタリー要素を盛り込んだ
本作の緊張感を一気に高める条件が、30分生放送のゾンビ映画ということです。
30分生放送という前提条件を説明するために、完成作品を観客に観せた上で、話が1ヶ月前に遡ります。
話が遡ると、製作過程に迫り、どんな苦悩やこだわりがあり、何を伝えようとしているのかということを監督を初めとした製作陣やキャストに密着して、解明していきます。
この様子を映している映像は特典映像で観たことがある人も多いのではないでしょうか。
本来は、好きな作品について製作の経緯や背景といった裏側も知っていくことで、さらに作品が好きになるということはあると思います。
しかし、本作では強制的にこれを決行。
観客は、製作に至るまでの経緯・過程を観せられることで、自然と作品に対する愛情が生まれ、製作者側に感情移入してしまう仕掛けが施してあるのです。
ゾンビ専門チャンネル開局記念企画としてノーカット一発録りのゾンビものを撮影し、それを生中継するという無茶な依頼。
バラエティの再現VTRやカラオケ映像を中心に撮影してきた日暮隆之に加え、出演者・製作陣も曲者揃い。
「これでは良いものができるはずがない」と全員が思ったはずです。
これこそが特典映像を観せてきたようなリアリティであり、本作のドキュメンタリー要素となっているのです。
3.「カメラを止めるな!」をドラマとして完結させた
前述の無茶な注文から話が進んでいくわけですが、本作最大の見せ場となるドラマ要素に迫っていきます。
そのために、まず本作の中心人物となる日暮家の3人について説明します。
個性豊かなキャラクター
妥協を重ねて作品を完成させる父の姿を見て育ったせいか映像製作において一切の妥協を許さない。
『シャイニング』や『タクシードライバー』のTシャツを着ていたことから映画オタクだと予想できる。
・日暮晴美(母)
元女優だが、今では夢を諦め、ヨガや護身術など様々な趣味に手を出しては飽きる生活を送っている。
女優時代は役に憑依しすぎて、我を忘れ、引退という形で業界から追放された。
妥協ばかりの男が無茶な依頼を引き受けた理由
「娘に良い顔を見せたい」「娘に誇れる仕事がしたい」、冷め切った娘との関係修復も兼ねて今回の依頼を受けます。
日暮家も夢を諦めており、現状に満足のいく結果が残せていない製作陣が映し出されています。
キャストや製作陣も問題児ばかりで、ノーカット生放送一発録りという困難を乗り越えなくてはなりません。
会場が一体となって応援するドラマが完成
迎えた本番当日も問題が尽きることはなく、キャストが事故に見舞われ、2人の欠員が発生。
遠方での撮影のため代役が立てられない、台本に修正を加えることもできないという絶体絶命のピンチを迎えます。
そこで監督である日暮隆之は自身が代役で出演するという解決策を見いだします。
それでも一人足りず、父の現場見学という建前で「神谷和明」を見学に来ていた日暮真央と日暮晴美の内、年齢的にも脚本に合致する日暮晴美が娘のゴリ押しで出演。
それぞれのパーソナリティーも把握した上で、視聴する「ONE CUT OF THE DEAD」
前述した内容に留まらない幾多の困難を乗り越え、製作陣の動き、トラブル続きの現場までパッケージ化すると、これまで積み上げきた全ての点と点が、最後に1つの作品として線になります。
下がりきったハードルと劣悪な状況から生み出された作品として「ONE CUT OF THE DEAD」を観ると、冒頭40分いきなり作品を観た心情とは大きく異なっています。
凡骨が一致団結し、ギリギリの局面を緊迫感たっぷりに描く本番は手に汗を握り、思わず応援してしまうこと。
まさに本作をドラマとして完結させていると考えられます。
『カメラを止めるな!』の残念だった点
泥酔して暴れる細田学:IMDb
ここまで、『カメラを止めるな!』絶賛してきましたが、若干気になる点がありました。
それは物語が終盤に向かうにつれて失速していったことです。
度重なる撮り直しと、ハプニングを繰り返していく展開、間延びしているような印象を受けたことも事実。
作品全体としても、前半で一度完成作品を視聴しているので、実質2回同じ映画を観せられることになるということ映画作品として疑問に感じる点でした。
まとめ
逃げ惑う神谷和明と松本逢花と日暮晴美:IMDb
本作が作品内容に留まらない魅力を放っている理由として、新人監督が無名の俳優たちと約300万円の製作費で撮った映画ということもあります。
予算がなく、有名俳優もいない圧倒的な障壁を抱えながら興行収入1億7千万円を超える記録的なヒットに繋がった映画『カメラを止めるな!』。
この成功には、迫力のある映像を作るために莫大な予算を投下できるハリウッドを相手にするような正攻法ではなく、大作に期待する観衆の見方を変えるという点に終始したからこそだと思いました。
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