『ヘレディタリー/継承』謎の光や悪魔の正体とは?内容解説と意味を考察【あらすじ、感想、ネタバレあり】

海外メディアに「直近50年のホラー映画の中の最高傑作」「21世紀最高のホラー映画」と言わしめたホラー映画『ヘレディタリー/継承』。

『クワイエット・プレイス』や『ハロウィン』などの多くのホラー作品が公開された2018年。

中でも圧倒的な存在感で、観た人に逃げ場のない恐怖絶望的な後味の悪さを残しました。

そんな本作についてあらすじとネタバレを踏まえながら感想と解説をご紹介していきます

『ヘレディタリー/継承』の作品情報とキャスト

グラハム家の4人:IMDbより

作品情報

原題:HEREDITARY
公開年:2018年
製作国:アメリカ
上映時間:127分
ジャンル:ホラー、ドラマ

本作は今多くの話題作を生み出している製作会社A24の最新作。

創設6年という短い歴史の中でアカデミー賞を受賞した『ムーンライト』やサンダンス映画祭で監督賞を受賞した『ウィッチ』を製作しています。

『ヘレディタリー/継承』もA24が手掛けたというだけで期待大の作品です。

監督とキャスト

監督:アリ・アスター

代表作:『C'est La Vie(原題』『The Turtle's Head(原題)』

出演:トニ・コレット(アニー・グラハム)

代表作:『ベルベット・バズソー: 血塗られたギャラリー​』『リトル・ミス・サンシャイン』

出演:ミリー・シャピロ(チャーリー・グラハム)

出演:ガブリエル・バーン(スティーブ・グラハム)

代表作:『マイ・プレシャス・リスト』『ユージュアル・サスペクツ』

主演兼製作総指揮をつとめたトニ・コレットは、『シックスセンス』でアカデミー助演女優賞にノミネートされたこともある名女優。

また、本作が長編映画デビューとなったミリー・シャピロは、ブロードウェイ・ミュージカルで彼女の演技力が認められトニー賞を受賞しました。

監督のアリ・アスターもミリー・シャピロ同様に、本作が長編映画デビュー作品です。

『ヘレディタリー/継承』のあらすじ

無表情な少女チャーリー:IMDbより

アニー・グラハムの母、エレンが亡くなった。

秘密の多かったエレンの葬儀にはアニーの知らない顔ぶればかりが揃う。

アニーは、夫のスティーブ、息子のピーター、娘のチャーリーと共に、家族を失った寂しさから立ち直ろうとしながらもエレンの秘密を探っていく。

しかし、エレンの死はグラハム家に訪れる恐怖の始まりに過ぎなかった……。

『ヘレディタリー/継承』の3つの見どころ

絶叫するアニー:IMDbより

ホラー史に残る演技力!

アメリカのホラーといえば大きな音派手な演出で恐怖を与えることが特徴ですが、本作は出演者の演技が何より怖いです。

終始無表情で、存在自体が不気味なチャーリーを演じるミリー・シャピロや、アニーを演じるトニ・コレットの絶叫顔はトラウマ必至の恐怖を感じます。

敢えてピントを外すカメラワーク!

ホラー映画ではゾンビや霊が出現すると、他に目が向かないように対象を大々的にアップにし、恐怖を与える演出が大半です。

しかし、ヘレディタリーでは敢えて恐怖の対象をカメラの端に登場させることで恐怖を与える演出が非常に巧みに用いられていました。

“Hereditary” ヘレディタリーの意味

Hereditaryには、”代々の”や”遺伝”という意味があります。

祖母が亡くなってから狂い始めたグラハム家では一体なにを継承されているのか、最後まで目が離せません。

『ヘレディタリー/継承』の感想

悪魔降臨の儀式を行うグラハム家:IMDbより

アメリカ最大の映画評論サイト、ロッテントマトで89%という高評価を記録した『ヘレディタリー/継承』。

本作は、かなりの恐怖を感じる作品ということだけでなく、巧妙な伏線演出アメリカと日本の思想の違いを描き出した作品としても非常に興味深い作品でした。

それでは本作の感想をネタバレを交えて書いていきます。

巧妙な伏線

本作で張り巡らされた伏線は、気づいた瞬間に一層の恐怖を与えるもの。

何の気なしに物語を観ていく中で、散りばめられた伏線が回収された瞬間に身の毛もよだつ恐怖を覚えます

ミニチュアアーティストのアニーの部屋にあるミニチュアの家からのクローズアップで始まる映画の冒頭から伏線は始まっていました。

これから本作内に登場する伏線を場面ごとに4つ説明していきます。

伏線①:グラハム家をミニチュア模型で創作している

ミニチュアから始まることによって、グラハム家はミニチュア模型の世界のように何か巨大な存在によって操られているような印象を抱きます。

つまりミニチュア模型で創られたグラハム家の外観自体が逃れられない運命を描く比喩となっていたとも考えられるわけです。

メタメッセージを除いて考えるとアニーは、父と夫を自殺によって失い、母のエレンも宗教に入信していることからミニチュアの製作は箱庭療法なのでしょう。

箱庭療法とは、セラピストが見守る中、クライエントが自発的に、砂の入った箱の中にミニチュア玩具を置き、また砂自体を使って、自由に何かを表現したり、遊ぶことを通して行う心理療法のこと。

一般社団法人 日本臨床心理士会HPより

伏線②:本題に無関係の人々の登場シーン

チャーリーが目撃する塀の向こうから手を振る女性:IMDbより

映画が進行していくに従って、不気味な人々が次々に登場してきて視聴者に強烈な違和感を与えます。

いくつか列挙すると、

・エレンの葬儀中にチャーリーに微笑む男性

・チャーリーが鳩の首を切り、振り返ると塀の向こうから手を振る女性

などです。

初めは恐ろしい出来事の前兆として見える幻覚かとも思いますが、後に彼らはパイモンを崇拝する人々だったということが明らかになります

このことは本作の中で言及されていませんが、クライマックスの裸体の人々が現れるシーンで彼らをはっきりと映していくことで示していました。

エレンの死後、パイモンがピーターに宿される瞬間を心待ちにしながらグラハム家をずっと監視していたのではないでしょうか。

伏線③:常に意識させられる悪魔の存在

パイモンのシンボル:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%A2%E3%83%B3より

葬儀中にアニーがスピーチをしているシーンで、彼女が身に付けているペンダントを注視するとパイモンのシンボルであることが分かります。

このペンダントについて、アニーは映画後半でエレンから受け取ったものだと言っています。

ペンダントを受け取っていたことや、塞ぎ込みがちな性格という共通点。

以上のことからエレンが持っていた悪魔に関わる要素を直接受け継いでいたのは、チャーリーだったと考えられますが、パイモンを宿す生贄はチャーリーではありません。

パイモン崇拝者の真の狙いは、実はピーターであり、チャーリーを死に至らしめるまでの経緯は、用意周到なものでした。

この事実を裏付ける根拠が、チャーリーがパーティーに向かう道の柱にもペンダントと同じパイモンのシンボルが描かれていたことです。

ナッツアレルギーのチャーリーがパーティーでナッツ入りケーキを食べてしまうことも、道路に動物がいた事も偶然ではなくパイモン崇拝者によるものだったと推察できます。

伏線④:作中に盛り込まれる謎の光の正体

ところどころ現れる光もパイモンの存在を意味していると考えられます。

その根拠となる要素を3つ書いていきます。

1.映画の冒頭

映画の冒頭からチャーリーが存命の間、光はチャーリーの部屋やチャーリーの周囲に出現しています。

前述の通り、エレンはグラハム家で唯一パイモンの存在を認識しており、そんな彼女と心を通わせていたチャーリー。

その為、初めはチャーリーが光を目撃する中心人物であり、映画が進んでいくと、光に導かれて外に出ていきエレンの姿を目の当たりします。

2.チャーリーの死後から映画の後半

この期間は、パイモンの生贄となるピーターが光を目の当たりにするように変化

光は学校にまで現れ、遂にピーターの気が触れてしまい、彼は窓から飛び降りることになります。

この瞬間にピーターの身体に光が照らされていました。

3.映画のクライマックス

そして、悪魔を祓う為にチャーリーの所有物だった現世と冥界で会話をする媒介となっていたノートを燃やすシーンで、突然にスティーブの体に火が上がります。

驚愕するアニーでしたが、彼女に光が通った瞬間に表情が一変します。

これは光が通ったアニーがパイモンに操られ、夫に火に放ったと考えることが妥当。

以上のシーンからも不吉な出来事はパイモンが訪れている証拠であり、これを示すものが謎の光だったと考えられる訳です。

このように映画の随所に物語の伏線となる要素が巧みに張り巡らされていて、本作にホラー映画の枠に収まらない芸術性を感じました。

複雑な感情を描く

母エレンと愛娘チャーリーを失い、自分の今までの行動に後悔し、寂しさを埋めるべくグループカウンセリングを受け始めたアニー。

彼女の精神状態は完全に変になっており、彼女の仕事であるミニチュア模型の製作にも出ていたことは明らかです。

異常な精神状態がミニチュアに反映され、自身が囚われている過去を表現。

具体的には、チャーリーが亡くなった場面をミニチュアに投影しているシーンが印象的でした。

このような彼女の行動には、精神科医のスティーブでさえもお手上げ状態になるほどです。

アニーは、乗り気ではなかったチャーリーを無理矢理パーティーに同行させたのは自分であり、チャーリーの死は自分に責任があると思い込んでいます。

しかし反面では、車を運転していた直接の加害者であるピーターにも非があると理解しています。

そんな軋轢が食卓での大喧嘩という形で表出した際に、ピーターと言い合いになったアニーの顔は鬼の形相でした。

行き場のない気持ちで葛藤している様子が一家が沈黙する恐ろしい食卓の場面やアニーの表情からリアルに伝わってきます。

故意ではない事故によって大切な娘を失った家族加害者のやり場のない感情を描いていることもまた、本作がただのホラー映画に留まらない1つの要因でしょう。

「もう一度、娘に会いたい」「娘と話がしたい」という思いで、呪術にのめり込むアニーに罪は無いように思います。

何故なら誰もが、大切な存在を失ったとき、行き場のない感情を抱く可能性があるから。

そして、家族が歩んできた運命から逃れることはできないという運命を描き出していく。

その時に過去にすがりつくのか、近くにいる人を大切にするのか、本当は何に頼るべきなのかということを考えさえられる作品でもありました。

恐怖を煽る映像

本作が描き出す恐怖には様々な表現がありますが、視聴後にも爪痕の残すのが、チャーリーの癖である“コッ”と舌を鳴らす音

冒頭からチャーリーは定期的に舌を鳴らしていたので、この音が印象的でありチャーリーの存在を強く感じることができました。

チャーリーの死後は、ピーターが授業中や寝ているときにも”コッ”と舌を鳴らす音を耳にします。

言葉が無くてもこの音だけで死んだはずのチャーリーが近くにいる恐怖を感じ、視聴後でもどこからか“コッ”っとチャーリーの舌の音が聴こえてきそうと思ったのは私だけではないはず。

そして、本作は常にインパクトがある恐怖を描き出している訳ではありませんが、脳裏に焼き付く映像が表現されていました。

私が特に頭から離れないシーンの1つ目が、チャーリーが車の窓から顔を出した為に柱に頭が激突して、首が切断されるシーン

リアルな事故映像を目にした衝撃を感じるとともに、一晩経ったチャーリーの生首には無数の蟻に覆われています。

このシーンはトラウマ級の恐怖を感じました。

もう1つは、アニーが自ら首を切っているシーン

血飛沫を上げながら自らの首を切断していく様子は、グロ描写への耐性が無い方には決しておすすめできません。

伏線回収を行う巧みな演出に加えて、インパクトのある映像で視覚的にも楽しませてくれることがホラーファンにとって嬉しいポイントです。

『ヘレディタリー/継承』の解説

葬儀を行うグラハム家:IMDbより

ここまでへレディタリーの仕掛けや演出面での恐怖について書いてきました。

ここからはストーリーに関して解説をしていきます

グラハム家に継承されていたものとは?

悲劇は全てアニーの妄想によるもの?

本作の一番の謎はなぜ悪魔がグラハム家にやってきたのかということ。

ここでやはり鍵を握るのが、アニーの母であるエレンとなるでしょう。

エレンは謎が多く、統合失調症を患っている診断されている人物であり、彼女の死から一家に訪れる災難をひたすら描き続けていきます。

冒頭でエレンの遺言には、「これから起きることを許して欲しい」という旨の内容が記されていました。

物語が核心に近づくにつれて、エレンの遺品からアルバムを発見し、エレンはパイモン崇拝者の核となる人物だったということが明らかになるシーンもあります。

パイモンの信者であり、この血を引き継いでいるグラハム家に、悪魔を継承することがエレンの使命であり、本作で描かれる”継承”と”逃れられない運命”なのです。

継承という点に注目すると、アニー自体が精神状態が正常ではなかったとする表現が盛り込まれているおり、エレン同様に統合失調症を患っているのではないかと捉えられます。

すなわち本作が全て彼女の妄想なのではないかという解釈にも繋がります。

・夢遊病を患っているため、自分でも分からない行動を取る事がある。

・2年間夢遊病の為に治療を行なっていた。

・ミニチュアアートの工房に「仕事を続けろ!」といった自分への言葉を付箋にして大量に貼っている。

以上のことからも、母からの遺伝によって統合失調症を患っていた事実として合点がいく上に、彼女の病気は完治していないのではないかと考えられます。

悪魔パイモンとは?

そして、パイモンとは旧約聖書の中のイスラエルの王、ソロモンに仕える72の悪魔のうちの一体。

パイモンは、本作のために作り上げられた架空のものではなく実際に語られている悪魔です。

この悪魔を降臨させるためのパイモン崇拝者からエレンは、王妃リー(エレンの名字)として崇拝されていました。

エレンは、昔アニーの兄であるチャールズにもパイモンを宿そうと試みたことがありますが、失敗してチャールズは自ら命を絶っています。

このことから分かることは、アニーの娘であるチャーリーや息子であるピーターが生まれる前からパイモンとグラハム家は繋がりがあったということです。

チャーリーへの"継承"は決まっていたもの?

チャールズへの儀式が失敗した為に、代わりとなる人物がピーターというわけですが、元々ピーターはアニーによってエレンから引き離されていました。

これはアニーがチャールズの死という過去によって、エレンに息子を近づけてはならないと守っていてくれたお陰で何も起こらなかったとも考えられます。

しかし、女の子であるチャーリーはエレンと頻繁に接触し、可愛がられていました。

エレンは「チャーリーが男の子だったら良かった」と常に言っていたことは、恐ろしいエピソードではありますが、裏のメッセージを読み取るとパイモンは男にしか宿せないということです。

ここでパイモンを降臨する条件をまとめると、

・正当な血統(王妃リーの血筋)であること。

・パイモンと同じ性別(男)であること。

以上の2点が上げられます。

このことは映画のストーリーを整理すると明らかになります。

まず、アニーの夫、スティーブは男性ではありますが、王妃リーの血筋ではない為、パイモンを宿すことはできませんでした。

また、エレンと心を通わせていたチャーリーも男という条件を満たしていません。

だからこそピーターが選ばれたのでしょう。

首を落とすシーンが多い理由

地獄の辞典に記されるパイモン:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%A2%E3%83%B3

そして、悪魔や精霊に関して記述した文献、魔術に関して記したグリモワールによると、パイモンが現れる際には、王冠を被り女性の顔をした男性の姿をしている記してあります。

また、エレンの本に記されていたパイモンは女性の首をぶら下げいたことからも女性の首が3つ必要だったのではないかと考えられます。

実際に本作では、

・チャーリーは学校で死んだ鳩の首をハサミで切り取る。

・チャーリー自身の首が事故によって取れる。

・エレンの首無し死体が発見される。

・アニーが自身の首を切って命を落とす。

・エレンの死体には首が無い。

・エレンの墓を掘り起こし、首を取り出す。

以上のように、首を取ることに強いメッセージを持たせて描いていました。

日本人には馴染みのない悪魔の存在

本作のキーとなる悪魔の存在ですが、日本では悪魔という存在自体が想像しづらいのではないでしょうか。

日本のホラー映画といえば死者の呪いによって幽霊が出現するなど、呪術的な恐怖を恐れる傾向にあります。

日本で悪魔が出てくる映画を観た後、本当に悪魔が日常生活に出てくると日本人は少ないでしょう。

それは宗教の違いが挙げられるわけですが、本作の製作国、アメリカではキリスト教の方が中心です。

キリスト教徒ではなくても、聖書の内容を知っているという方が殆どのため。悪魔の存在は聖書に馴染み深いアメリカ人にとってはリアルな存在なのでしょう。

それでも日本でも受け入れられるホラーとして成功を収めた理由。

それは実際に起こり得る範囲で観た人全員が、嫌悪感を覚える物語として完成していたからではないでしょうか。

家族を取り囲む最悪の事態と精神を患った母親。

脚本も演出も優れており、本作がこの10年で最高のホラーいっても過言ではないと思います!

まとめ

自室で寝付けないピーター:IMDbより

多くの批評家から2018年最高のホラーといわれた『ヘレディタリー/継承』。

アリ・アスター監督が『普通の人々(1980)』からの影響を受けたと言っていた通り、本作の登場人物は決して多くはなく、ひたすらHereditaryを描き続けます。

そして監督自身が家族からの継承に苦しんだといっていた内容が本作に投影されていると語っていました。

実際の経験から描かれるリアリティによって、非常に後味の悪い作品として完成している本作

伏線を探しながら、本作のメッセージや脚本に注目して観てみると新たな発見があるかもしれません!
ハリポタ

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