
さらに、日本の映画レビューサイトFilmarksでは、5点満点中、4.3点という高評価を記録。
2019年3月1日の公開当日に早速鑑賞してきたので、感想を紹介していきます。
目次
『グリーンブック』の作品情報とキャスト
作品情報
原題:Green Book
公開年:2018年
製作国:アメリカ
上映時間:130分
ジャンル:ドラマ、コメディー
監督とキャスト
監督:ピーター・ファレリー
代表作:『帰ってきたMr.ダマー バカMAX!』『ムービー43』
出演:ヴィゴ・モーテンセン(トニー・“リップ”・バレロンガ)
代表作:『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ『イースタン・プロミス』
出演:マハーシャラ・アリ(ドクター・ドナルド・シャーリー)
代表作:『アリータ:バトル・エンジェル』『ムーンライト』
『グリーンブック』のあらすじ
パーティー前に話をするドクターとトニー:IMDb
ニューヨークのクラブで警備として働いているトニーは、腕も口も達者で周囲から好かれる人物。
彼が勤めていたクラブが休業を迎えたことをきっかけに、職探しを始めるトニーは、天才ピアニスト(ドクター・シャーリー)の運転手をの仕事を引き受ける。
イタリア系アメリカ人で、粗野で黒人への差別意識が強いトニーと、教養と品格を持ったドクター・シャーリー。
正反対な二人が、60年代アメリカの人種差別が根強い時代に黒人用旅行ガイド(グリーンブック〉を手に南部を目指して出発する!
『グリーンブック』の3つの見どころ
ホットドッグの大食いで50ドルを手に入れるトニー:IMDb
作品内に盛り込まれたユーモア
『メリーに首ったけ』『愛しのローズマリー』などのコメディーを多く手がけてきたピーター・ファレリー監督。
本作にもコメディー要素が随所に盛り込まれており、劇場内も笑いに包まれる場面がありました。
旅を通じて育まれる二人の友情
本作の主題の1つとなる要素が、トニーとドクター・シャーリーの友情。
彼らが時にぶつかり合いながらも関係性を深めていくことに大きな意味がありました。
1960年代と現代に共通するテーマ
1960年代という時代の舞台はジム・クロウ法の真っ只中。
黒人への差別が激しい時代を描いている本作は、現代にも通じるメタメッセージを含んでいる作品でした。
『グリーンブック』の感想
富裕層向けに演奏を披露するドクター・シャーリー:IMDb
オスカー受賞で話題を集めた作品ということもあり、期待も高かった本作。
評判通り本作は、人種を超えた友情物語としてまとまっており、笑いあり、感動ありの傑作だったように思います。
コメディー要素も盛り込まれながら展開していく本作は、社会問題について描いた映画であるにも関わらず、深刻過ぎない内容でした。
この点も多くの人に受け入れられる作品として納得の出来。
それでは、本作の感想をネタバレを交えながら書いていきます。
1960年代と現代に通じる問題について
本作における問題提起
差別が根強く残るディープサウスでツアーを行うということが、本作の目的であり、作品を通しての問題提起でした。
初めに、本作の物語の概要について改めて確認します。
ドクター・シャーリーは、ホワイトハウスでも演奏の経験がある天才ピアニスト。
彼の腕前があるとはいえ、黒人である彼が差別の根強く残る地域に出発することは、自殺行為ともいえます。
そこで用心棒にもなる運転手として雇われたのがトニーです。
トニーが問題解決の能力に優れていたことは、ドクター・シャーリーが契約しているレコード会社からもトニーを推薦する名前が上がったというエピソードや町中の人々に名前を呼ばれる彼の人脈から分かりました。
能力の高い彼ですが、短気でズル賢い性格が災いし、職がない状態。
彼は黒人の下で働くということに納得しておらず、家計を助けるために運転手を勤めることに決めたのでした。
そして、ドクター・シャーリーがツアーを行うための安全な黒人を歓迎してくれる宿泊施設の情報をまとめたガイドブックが”グリーンブック”です。
人種差別が根強い時代
本作の主な主人公となるトニーは、保守的な家庭で育ったイタリア系アメリカ人。
家柄もあり、彼は黒人への差別意識が強く、自宅の水道工事に訪れていた黒人二人が使用したグラスをそのままゴミ箱に捨てるほどでした。
彼が特別というわけではなく、1960年代のアメリカには、ジム・クロウ法という法律が存在しました。
この法律は、1876年から1964年に存在したものであり、白人以外の有色人種、主に黒人の一般公共施設の利用を禁止制限したものです。
現代と日本にも通じる差別意識
内容と、時代背景について確認したところで、本作の問題について。
旅の目的からして本作が、差別という問題について強く提起した作品だということは明らかです。
本作で描いていたドクター・シャーリーに対する酷い差別を挙げると、
・バーで飲んでいるだけで、白人に袋叩きにされる。
・夜に出歩いただけで拘留される。
・白人と同じ、公共施設(トイレ・レストラン等)を使えない。
など散々なものでした。
このような問題に対して、ドクター・シャーリーはひたすら耐え続けます。
待ってくれている観客のため、会場との契約のためとはいえ、我慢を続ける姿に胸が締め付けられました。
アメリカを初めとした諸外国では、未だに人種差別が残っている地域もありますが、同一の民族が暮らす日本では、地域での差別を耳にすることは少ないです。
しかし、見た目や振る舞いが他の人と違うからといって差別をするような風潮は日本にもあるように思います。
ただバーで飲んでいただけいなのに複数の白人にリンチを受けたドクター・シャーリーは、「君の家の隣のバーで飲んでいても同じことが起きていた」と発言していました。
これは差別意識が、地域によるものだと考えるトニーに対して、ドクター・シャーリーが差別は、地域だけが原因ではないと示す重要なシーン。
差別を他国だけの問題として考えるのではなく、差別や異なる人種との共存という視点で考えたからこそ、本作が一層深い意味を持って響いてきました。
対照的な二人の成長について
アメリカで公開されてから『グリーンブック』と似ている作品として『最強のふたり』『ドライビング Miss デイジー』が挙げられていました。
確かに、ロードムービーで人種の異なる二人が友情を築き上げてく様は前述の2作に類似している要素があると思います。
名作である2作になぞらえて語られがちではありますが、敢えて言うと『最強のふたり』のように人種だけでなく、性格も境遇も対照的な二人の友情物語としてまとまっていたことは印象的でした。
それぞれの特徴を彼らが持っているものでまとめました。
→高級な家具に囲まれ、不自由のない暮らしをしている
→幼い頃から芸術にも明るく、3つの博士号を取得している
→ホワイトハウスでも演奏経験がある
→特に無神経とも言える言動をしてしまう
→家族と友人が居て、外を歩けば町の住人と挨拶を交わす
→家族や友人に囲まれ、自分が何者かを理解している
→周囲から頼りにされる人望と実績
→ピアノ演奏・デタラメを言うユーモア
二人が共通して持っている以外は、一人が持っていて一人が持っていないものです。
彼らが互いに足りない要素を補いながら成長していく友情物語となっているからこそ、本作に感動し、微笑ましい二人の掛け合いに惹かれるのだと思いました。
人種差別という重苦しいテーマに終始するのではなく、人間としての幸せについて気づかせてくれる作品だったと感じます。
旅を経て二人が手に入れたもの
二人が不足している要素を補いながら成長していく物語として完成していた本作。
ドクターは、音楽の力で黒人への偏見や差別を無くすためにディープサウスでのツアーを行いました。
本来の目的は差別意識への抵抗としての旅でしたが、二人の旅は、二人が人生を幸せに過ごすために掛け替えのないものを得るための旅だったともいえるでしょう。
彼らが旅を経て手に入れたものが本作が、ただ社会的な問題を提起している作品として完成しているのではなく、多くの人に受け入れられる物語として完成している要素だったと思います。
二人が手に入れたものを3つ挙げていきます。
1.家族
トニーに手紙の書き方を教えるドクター・シャーリー:IMDb
長旅に出るトニーとの別れが寂しい妻は、「電話は高いから、手紙を出して」と言いました。
トニーは「俺が手紙を?」と言っていましたが、渋々これを了承。
そんな彼の手紙は、スペルのミスも多く、脈絡も破綻しており稚拙な内容でした。
これに対し、詩的な手紙の書き方を教えていたドクター・シャーリーに、「お前も疎遠になった弟に手紙を書くといい」というアドバイスをするトニー。
相手から行動されることを待つのではなく、自分で行動することを教えてくれたことで、ミュージシャンという特異な職業柄で疎遠になった家族の関係性も修復できたと想像することができます。
2.友人
クリスマスに一人過ごすドクター・シャーリー:IMDb
孤独だったドクター・シャーリーは、富や名声があっても孤独で寂しそうでした。
玉座に座っている彼は、高級な家に住んでいますが、流行している黒人歌手を知らないなど黒人に対する興味や知識も薄く、世間一般とは、かけ離れていました。
口論になった末にトニーがこのことを指摘してしまうシーン。
そして、「白人でも黒人でもない私は一体何者なんだ!」と激昂したドクター・シャーリー。
自分が何者か分かっていなかった彼に生きる喜びをを与えたのは、人との繋がりだったと思います。
2ヶ月の旅を終えた後、トニーの家で開かれたクリスマスパーティーに参加したドクター・シャーリーは、彼を正式にマネージャーとして雇う時のようにお金で納得させるという選択は取りません。
手土産のお酒を一つ持ち、パーティーに顔を出したことで、彼は孤独なクリスマスを過ごさずに済みました。
トニーは、彼の不在でずっと落ち着かない様子であり、自分を思ってくれる人間がいることこそが人としての幸せだと思うことができた印象的なシーンです。
3.他人への理解し、尊重する心
仕事の話を聞くトニーと玉座に座るドクター・シャーリー:IMDb
初めは玉座に座っていたドクター・シャーリーは、目線が高く、トニーを見下ろすような構図になっていました。
実際に社会構造で考えると二人の格差を象徴しているようでもあります。
しかし、最後に近づくにつれて、二人の目線は同じになっていく様子が印象的でした。
1.フライドチキンを素手で食べる
ナイフとフォークが無いと食べられないと言っていたドクター・シャーリーが庶民的な食べ物であるチキンを食べるシーンは大きな心境の変化といえるシーンでした。
2.トニーと並んで酒を飲むドクター・シャーリー
一人で酒を飲むことが日課だった彼とトニーが並んで酒を飲むシーンは、彼らが並んで椅子に座り、同じ目線になったことを表しています。
そして、大衆酒場のようなバーで誰よりも楽しそうに演奏しているドクターは、庶民的な価値観を持つ人物に変わっていったといえるでしょう。
3.トニーに変わって車を運転するドクター・シャーリー
長距離の運転と吹雪による悪天候で睡魔に襲われたトニーに変わって車を運転する場面。
このシーンはクリスマスのパーティーに間に合うことを気にしていたトニーを気遣い、最後は運転までするということに感動すら覚えました。
4.黒人への差別を止めたトニー
トニーは、初め黒人に対して差別的な思考を持っていましたが、長旅から帰宅したパーティーの席で、「ニガーとの旅の感想を教えてくれよ」と言ってくる兄弟に対し、「”ニガー”と呼ぶのは止めろ」と言います。
”ニガー”は黒人に対する差別用語なので、この言葉を使われることに嫌悪感を示したということは差別的な思考を止めたといえるわけです。
5.教養や品格を磨くトニー
言葉遣いも行動も卑しいトニーに対してドクター・シャーリーは、無償で彼に教養を与えていきます。
彼が見違える程に変化したというシーンは大々的には描かれていませんでしたが、「コツが分かった」という彼が、自分の力で書いた手紙は、感動的な内容に変わっていました。
このようなシーンからも二人の間には、格差や優劣は無く、二人が肩を並べていく映画になっていました。
物語の進行に伴って、お互いを尊重していく様に心情が変化していくことも特徴的でした。
バーで酒を飲むドクター・シャーリーとトニー:IMDb
本作を彩る演出について
警官を殴り拘留されたトニー:IMDb
フライドチキンのシーン
トニーとドクター・シャーリーの関係性が深化していくきっかけとなったフライドチキン。
ケンタッキー州に入ったことをきっかけにトニーはこれを買い「フライドチキンを食ったねぇのか」と言い、「ナイフとフォークが無ければ食べられない」と言うドクター・シャーリーに対して半ば強引に食べさせます。
初めは嫌悪感を示していたドクター・シャーリーですが、フライドチキンは、アメリカ南部の黒人奴隷のソウルフード。
多くの人が、白人の食べ物であるように思えるフライドチキンを作中に盛り込むことで、文化的背景も意識させる効果があったと思います。
作中での二人の関係性と差別による歴史的背景とを巧みに組み合わせて表現している見事なシーンでした。
本作における情景描写
ストーリーだけでも満足できる本作ですが、情景描写が巧みに盛り込まれていたことが印象的でした。
特に、前も見えない程の大雨に襲われたシーン。
ここで、警察に止められたトニーは、警官の挑発に乗ったことで公務執行妨害で拘留されてしまいます。
順調に進んでいくはずのツアーの大きな転機を迎えるシーンが雨だったこと。
そして、牢屋に拘留されたトニー(上画像を参照)。
彼を見てみると、牢屋の枠に囲われ、彼の顔が間からやっと見えるように撮影されています。
これは、彼の考え方が狭いものだったことを表していると推察可能です。
枠に囚われ、「黒人といえば…」「イタリア系アメリカ人といえば…」のように括ってしまう彼の考えの狭さを象徴的に描いた場面だったと思います。
本作の主題について
白人と同じレストランで食事ができないことに抗議するトニーとドクター:IMDb
本作の主題となっていた差別と友情について。
彼らが互いの不足している要素を補いながら、成長していく過程がユーモラスに描かれていて時に笑えるシーンもありました。
具体的に挙げると、
①ドクター・シャーリーにフライドチキンの食べ方を教えるトニーがフライドチキンの骨を車の窓から投げ捨て、それを真似る。
トニーが勢いで、飲み物のプラスチックカップを窓から投げ捨てると、それを拾わせる。
②道中のお土産売り場で、売り場から落ちていた翡翠石をくすねたトニーに対して、それを返品させる。
このことを踏まえて映画の終盤に、ドクターは、前も見えない程の吹雪によって、無事に帰れるか分からない状況で、「翡翠石のお守りに祈ろう」といいます。
このようなユーモアも本作が高い評価を受けた要素といえると思います。
人種差別という重いテーマにも関わらず、観ている人に笑いを誘いながら描いてたこと。
ピーター・ファレリー監督は、事故で身体が動かなくなった親友から、「映画に障害者を出演させろ、ただし同情される存在としては出すな」と言われた約束があるという経緯もあるといい、彼の手腕に唸らされました。
そして、
・ユーモアも交えて描かれることで、重すぎない内容として完成していたこと。
・誰もが共感できる友情というテーマに終始していたこと。
以上の2点も本作を高く評価できる要素だったと思います。
『グリーンブック』に対する批判について
2ヶ月の留守を妻に話すトニー:IMdb
ここまで『グリーンブック』の良かったことを感想を交えて記してきました。
しかし、本作はオスカー受賞作であり、高く評価される反面、厳しい批判を受けた作品でもあります。
このなかで、私も気になった内容を紹介します。
白人の罪の意識が軽薄に感じる
本作の重要なシーンであるツアー最後の公演前。
白人と同じレストランで食事ができないことに抗議するドクター・シャーリーは、自分の意志を貫き、誇りを持っていたと思います。
しかし、トニーは強い差別が残っているのは、ディープサウスという「土地柄が原因であり、土地のルールに従うべきだ」といい、ドクターを説得。
トラブルを避けるための方法ではありますが、本質的な問題解決には結びついていません。
自らに内在している問題意識に対して、解決しようとするのではなく、白人のせいではなく、伝統や地域性が問題だとも捉えられかねません。
ここは差別に対して、強く声を上げて欲しかったと思いますし、トニーが自身にも差別意識があったことを反省するシーンはありませんでした。
それにも関わらず、ナイトクラブでの勤務のおかげでセクシャルマイノリティーの側面も持つ、ドクターへの理解があったということも理由としては弱いと思わざるをえません。
作品の裏話と実話との比較
作中の裏話
ヴィゴ・モーテンセン:IMDb
今回お話しするのは主役二人の役作りについて。
まず、トニー・リップを演じたヴィゴ・モーテンセンの変化を上画像にまとめました。
①『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)
②『ザ・ロード』(2009)
③『はじまりへの旅』(2016)
④『グリーンブック』(2018)
老化もありますが、役作りで、20kg増量した彼は『ロード・オブ・ザ・リング』のアラゴルンを演じた面影を感じさせない変貌ぶりでした。
本作内でのヴィゴは、タバコを吸って、飯を食べていない時間が無いと死んでしまうのかと勘違いしてしまうほど、必ずどちらかを堪能している様子が印象的です。
次に、ドクター・シャーリーを演じたマハーシャラ・アリについて。
本作で彼は、第91回アカデミー賞で助演男優賞を受賞しました。
彼は、実在した天才黒人ピアニストを演じるために、実際にピアノをマスターしたといいます。
演奏シーンでも違和感なく、手元と彼の顔を同時に映すことができたのは、実際にマスターしていたからということにも驚かされました。
実話との比較
本作は実在した人物であるフランク・アンソニー・バレロンガとドクター・シャーリーの旅を映画化したものです。
経緯として、トニーの実の息子であるニック・ヴァレロンガは父の旅を映画化できるようインタビューを初めとした情報収拾を行なっていたとのこと。
だからこそ、リアリティがある映画となったのでしょう。
当然内容としても、ほとんどを実話が元になっています。
大きな違いとしては、ツアーの期間が8週間ではなく、1年以上だったということ。
その他は映画で解釈しやすいように撮影されている点もあるとはいえ、おおよそ事実ということにも驚きです。
まとめ
酒場で演奏を披露するドクター・シャーリー:IMdb
オスカー受賞で話題を集めた作品『グリーンブック』
高い評価を受けた作品ということもあり、私は楽しんで鑑賞することができました。
アメリカでは、イタリア系アメリカ人は、人口全体の約5.9%しかいないマイノリティーであり、黒人は差別の真っ只中。
そんな二人が互いの足りないところを補うように成長していくロードムービーとして仕上がっていた本作は、一見の価値がある良作です。