
「人類、立入禁止。」のキャッチコピーと実在するエリア51を彷彿とさせる衝撃作『第9地区』(2009)。
アパール・ブロンカンプ監督は、1979年アパルトヘイトの体験者ということを踏まえて観ると、一層解釈が深まる社会問題にも言及した作品です。
そんな本作の感想と考察をネタバレありで紹介していきます。
目次
『第9地区』(2009)の作品情報とキャスト
作品情報
原題:DISTRICT 9
製作年:2009年
製作国:アメリカ、ニュージーランド
上映時間:111分
ジャンル:SF、アクション
監督とキャスト
監督:ニール・ブロンカンプ
代表作:『チャッピー』(2015)『エリジウム』(2013)
出演者:シャールト・コプリー(ヴィカス)
代表作:『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』(2010)
『第9地区』(2009)のあらすじ

ヴィカス:©︎IMDb
第9地区はエイリアンと人間が共存するスラム。
エイリアンの管轄を行うMNUと呼ばれる組織に所属しているヴィカスが、第9地区の難民達に立ち退きの交渉をしに行くが…。
『第9地区』(2009)の高評価ポイント

第9地区:©︎IMDb
高評価①:第9地区の世界観
前半は、まるでドキュメンタリー番組を見ているかのような映像作り。
スラムの描き方、エイリアンたちの暮らし、トタンや布で作られた建物、ゴミゴミとしている空間のリアリティが見事でした。
高評価②:社会問題を描く
第9地区に住むのは、地球に不時着したエイリアンは人間の土地に住ませてもらっているという立場であり、見た目のいびつさから”エビ”と呼ばれ虐げられる存在。
このことが現実社会にも通じる問題提起となっていました!
高評価③:ラストシーンの衝撃!人間がエイリアンに変貌していく
立ち退き要請を行うヴィカスは、作業中にエイリアンが持ち込んだ液体が目に入り、人間からエイリアンに変貌。
エイリアンを管轄する立場の人間が、自らもエイリアンということにもメッセージが込められています!
高評価④:SF要素満載な展開
本作では、SFファンなら興奮せずにはいられない道具が数多く登場。
巨大なUFOや最先端の武器、パワードスーツ。
アクション要素も多くあり、幅広い年代が楽しめる作品だと思います。
【ネタバレあり】『第9地区』(2009)の感想と考察

第9地区:©︎IMDb
第82回アカデミー賞作品賞ほか計4部門にノミネートされ、観る者を夢中にさせ、エンディング・ラストシーンが物議を醸した話題作『第9地区』(2009)。
私も本作の独創性や登場するセットやエイリアンの造形、物語を含めて、とても大好きな作品です。
それでは感想と考察を書いていきます。
『第9地区』(2009)という場所について考察

エイリアンとヴィカス:©︎IMDb
エイリアンが住んでいる第9地区はバラック、掘っ立て小屋が連なる空間。また、エイリアンの数も多く、文化も秩序もありません。
ゴミゴミとしていながら、生活感が漂うエイリアンのDNAでなくては使用できない専用武器や小道具の数々。
未知の文明を目の当たりにしていながら既視感を感じる映像に衝撃を受けました。
しかし、優れた文明とは裏腹に住民は飢え、食料を探し求め、決して裕福ではなくても、強く生きる様子。
これらの要素を全て引っくるめても貧困に喘ぐスラムを描いてることは明らかです。
ガチャガチャしたSF感とリアリティを感じる世界観の創造性は本当に圧巻でした。
人間に虐げられる存在であるエイリアンについて考察

人間とエイリアン:©︎IMDb
宇宙船の故障によって、第9地区に住むことになったエイリアン。
彼らの特徴は以下の通り。
・見た目はまさにエビ。その姿はまるで特撮の悪役のよう。
・言語を使い、エイリアン専用の武器を所持するなど優れた文明を持っている
・キャットフードや生ゴミを捕食 ・人間離れした力を持っている(素手で列車を横転させるシーン)
・知能は低く、粗暴。(全員が必ずしもこうではない)
エイリアンが難民となって28年後、第9地区から第10地区へと立ち退きを要請するのですが、現実は武力で弾圧していきます。
エイリアンが人間に何かしたわけでもなく、一方的に行われる武力行使は視聴者に疑問を感じさせる構造になっていました。
未知のものや異なるものに差別的な人間は共存ことも考えず、あたかも常識のようにエイリアンを虐げていきます。
差別国家もこのようにして成り立っていった部分もあったのではないでしょうか。
違いを受け入れて共存することが『第9地区』(2009)の持つ主題の1つ。
この点を考慮すると、本作が描いていることは現実に起きている人種差別・難民・移民問題といった社会問題への風刺が含まれていることに気がつきます。
監督は政治的な映画ではないと語っていますが、人種間の対立をメッセージとして受け取ったのは自分だけではないはずです。
何が人間を人間たらしめるのか?

銃を突きつけられるヴィカス:©︎IMDb
宇宙人の住処をガサ入れしていたヴィカスはエイリアンの親子、クリストファー・ジョンソンと息子のリトルCJに出会います。
彼らの家にあった黒い液体が目に入ってしまったことで、徐々にエイリアンへと変貌を遂げていくことになります。
途中でエイリアンに怪我を負わされたヴィカスが左腕に巻いた包帯。 後に医者に腕を診てもらった時に発覚する腕がエイリアンと化していたという展開のためでした。
人間がエイリアンになるという前代未聞の出来事を解明する為、研究材料となったヴィカスは、そのまま施設に幽閉されてしまいます。
今まで虐げる存在だった人間が、虐げてきた生物と同族になっていく。
皮肉の込められたメッセージでありながら、相手の心情を理解する方法として最短の方法を提示してきたことが革新的だと思いました。
今までエイリアンは虐げるものという常識に従って来た、ヴィカスがその常識を初めて俯瞰することになります。
自らが忌み嫌われるエイリアンへと変貌を遂げていくことになったら、どうなるか……。
窮地に立たされたヴィカスは、人間に戻る方法を模索していきます。
このままでは変貌していく身体への治療もなく、何をされるかも分からないヴィカスはなんとか施設から脱出。
逃亡生活を続けるヴィカスは、遂にマスコミから
「エイリアンとの性交渉によって変態が始まったのではないか。」
と噂されるなど散々な目に遭います。
マスコミの情報操作やHIVに対する偏見といった社会問題への言及をここでも盛り込んでいます。
エイリアンへと変わっていく人間は、人間としての生活を送ることはできないのか。
容姿が完全に異形のものとなったら周りはどう反応するのか。
まるで、フランツ・カフカの『変身』にもあるようなテーマを残し、物語はクライマックスへと繋がります。
衝撃のラスト! ヴィカスの選択とは?
ラストで遂に行き場を失ったヴィカスが逃げ込んだ先は、第9地区。
再び謎の液体を浴びた家の住人クリストファー・ジョンソンと息子のリトルCJ親子に出会います。
高い知能を持つクリストファーは、宇宙船で故郷に帰る計画があり、ヴィカスが浴びたのは宇宙船の燃料だと知ります。
クリストファーは、再び液体を手に入れれば体が元に戻るとヴィカスに伝え、一緒にMNUに乗り込みました。
ヴィカスは、液体を入手して元の体に戻して欲しいと依頼しますが、MNUでエイリアンの生体実験を目の当たりにしたクリストファーは
「仲間を救うために3年待ってほしい」
と伝えます。
これにヴィカスは激怒してクリストファーが逃亡のために用意していた指令船を奪って、宇宙船に乗り込もうとします。
しかし、司令官はMNUの部隊に墜落させられ、クリストファーとヴィカスは囚われの身に...。
MNUに車両で護送されていると、エイリアンになろうとするギャングが護送車を強襲。
ギャングの集団に拉致されたヴィカスがギャングのボスに食べられそうになったところをリトルCJが起動させたロボットに乗ってギャングを蹴散らしていきます。

ロボット(パワードスーツ):©︎IMDb
クライマックスのロボットでの戦闘は、身体はもう半分以上がエイリアンとなり焦りを感じるヴィカスが思い直し、囚われていたクリストファーを救出します。
そこでクリストファーは、
「3年後に必ず戻る」
とヴィカスに約束し、行方不明になります。
MNUから逃げ続け、唯一の知り合いも失い、クリストファーの行方も分からず、孤独になったヴィカス…。
クリストファーの妻タニアの自宅に廃材で作られた造花が置かれていました。
第10地区では、かつての人間の面影も失い、エイリアンに変態を遂げたヴィカスが造花を作りながらクリストファーを待ち続けています…。
『第9地区』(2009)のまとめ

宇宙船を見つめるヴィカス:©︎IMDb
バッドエンドではないが、決して明るい気持ちになれない。モヤモヤとした気持ちが残る想像の余地を残すエンディング。
人間に戻れずエイリアンにもなりきれないヴィカスの孤独な姿がいつまでも脳裏にこびりついて離れないのです。
・差別や移民といった社会問題に言及
・エイリアンに変貌しながらも妻への思いを持ち続けた彼の愛
・クリストファー親子がみせた親子愛 社会問題と愛
以上のテーマに言及しながら、エイリアン・武器・UFOといったロマンが詰まっていてSFファンの心を擽る要素が散りばめられている作品でした。