
『ブルー・マインド』(2017)で主人公を演じたルナ・ヴェドラーはスイス映画賞主演女優賞を受賞するなど注目の人物。
さらにスイス映画賞では7部門にノミネートされ、作品賞、主演女優賞、脚本賞の主要3部門を受賞しています。
スイスで高い評価を受けた作品が10月13日に日本で公開。
しかし、本作の公開映画館は東京では、渋谷のみで単回の上映でもあったことから日本での期待値は高いとはいえない状況でした。
そんな本国と日本で大きく注目度が異なった2018年10月12日公開の映画『ブルー・マインド』(2017)の考察と解説を書いていきます。
目次
『ブルー・マインド』(2017)の作品情報とキャスト
作品情報
原題:BLUE MY MIND
公開年:2018年
製作国:スイス
上映時間:101分
ジャンル:ドラマ、ホラー
監督とキャスト
監督:リサ・ブリュールマン
出演:ルナ・ヴェドラー(ミア)
出演:ゾーイ・パスティル・ホルトアイゼン(ジアンナ)
キャストは、スイスで製作された映画ということもあり名だたるキャストは出演していません。
主演を務めたルナ・ヴェドラーも初の主演にして、映画作品への出演も初めてです。
さらに本作の監督・脚本を務めたリサ・ブリュールマンも本作が初監督の作品とのこと。
『ブルー・マインド』(2017)のあらすじ

森の中で悩むミア:© tellfilm GmbH
両親の仕事によって新しい街に引っ越してきたミア。
彼女は自分の居場所を求め続け、スクールカーストトップのジアンナたちと仲良くなる。
親への苛立ち、思春期特有の目まぐるしい成長に不安を感じるミアは、落ち込む気持ちを気にしないようにジアンナたちとの悪い遊びにのめり込んでいく。
そんな彼女にあまりにも不気味で不自然な身体の変化が起き始める……。
【ネタバレあり】『ブルー・マインド』(2017)の感想

ミアに首を絞めさせるジアンナ:© tellfilm GmbH
正直言って過去の作品情報がない監督やキャストが中心である作品には不安な部分が多くありましたが、鑑賞し始めると、どんどん映画の世界に入り込んでしまいました。
少しスリリングではありますが平凡な日常と不自然な変態を遂げていくミアが交錯する本作は、異質な魅力を放っています。
『ブルー・マインド』(2017)の演出について

幼少期のミア:© tellfilm GmbH
本作を鑑賞していく中で、重要となっている要素が水を使った演出にあります。
海岸にいる幼女が海を見つめるシーンから始まり、海岸にいる幼女から変わって主人公ミアが成長していく過程に迫っていく本作。
家庭にある水槽、ミアの意識の中、音響…を初めとして、随所に水が盛り込まれることで、観ている人が自然と水を意識していたと思います。
思春期特有の流動的な気持ちを水のように描きながら、薄暗く、青みがかかった映像が繊細な少女の心境を投影していました。
会話は少ないですが一つの作品に、視覚や聴覚から本題に迫る表現を施し、メタファーも巧みに盛り込みながら完成していることに本作の芸術性の高さを感じます。
少女の成長をリアルに描く

身体変化に驚くミア:© tellfilm GmbH
本作の感想を語っていく上で、重要な要素となるのが、主人公ミアの成長について。
彼女について簡単にまとめると以下の通りになります。
・16歳になろうとしている思春期真っ只中の女の子。
・親の仕事の都合で、転校が多く、頼れる友人は居ない。
・家族は共働きの両親のみ。
・両親とは、仲が悪くはないが、両親は理解者というわけではない。
以上のような要素に加えて思春期という身体だけでなく精神的にも子供から大人への変容していく繊細な時期。
家庭でも学校でもコミュニケーションがうまく取れず、上手く溶け込めないミアは次第に不安を大きくしていきます。
そんな不安を埋めるように転校先では、スクールカースト上位のグループであるジアンナたちの仲間になることに。
自分の居場所を常に探し求めるミアは、言いようのない不安を抱えているように映ります。
多感な時期に転校し、周囲に友達も居ないという環境に置かれることはストレスばかり…。
誰もが抱えたことがあるであろうフラストレーションをクラスの関係性やジアンナたちとのやり取りとして描くことで、いっそう当事者意識を持って響いてきます。
大人になろうとしている精神と大人になりきれないという葛藤がもどかしくもあり、成長過程にある心情変化が繊細に描かれていました。
少女が経験する変化と不安

ミアの足の指の間が水掻きに変化していく:© tellfilm GmbH
本作を視聴して思ったことは、思春期のミアの成長物語を人魚へと変態していく身体を比喩的に用いている作品だということです。
見どころが少女の成長に迫っていく過程にあることは前述した通りですが、本作はただリアリティのある成長物語ではありません。
なぜならミアは、初潮後に確実に人魚へと変化を遂げていくからです。
・生の魚に対する異常なまでの食欲。
・足の指の水かき、腹部のエラが構成されていく。
・脚全体に模様が浮かび上がる。
明らかに違和感を感じる変化の最終段階は、二足歩行できる脚全体がヒレになります。
そして、最後は立派な人魚となり、海へと旅立っていくわけですが、身体に次々に怒る異常な変化が多感な時期の少女にとってどれだけ恐ろしいことでしょうか。
身体に起きる変化に不安を覚えても人生の先輩や信頼できる人が居れば、相談することは可能ですが、ミアにはそんな存在がいなかったこと。
最後まで塞ぎ込んでいたことは、リアルでもあり、悲しさを感じる点でもありました。
心の穴を埋めてくれる場所

ミアとジアンナ:© tellfilm GmbH
繊細な時期だからこそ真面目過ぎる家庭の鬱屈から逃れ、心の拠り所を求め、非行に走ってしまうミア。
この問題は社会的に無視できない重要なテーマを表していると思います。
非行と家庭環境についての問題の言及と分かるのが、一緒に不良行為を繰り返している親友ジアンナがシングルファザーであることを告白するシーン。
非行に走ることは家庭環境にも大きく左右される可能性があることを示しています。
言いようのない不安から逃れるためにジアンナたちとつるむようになったミアはタバコ、酒、ドラッグ、セックス…といったことを経験します。
異質な体験をするミアは決して特別な存在でなく、誰にでも犯罪行為に足を踏み入れてしまうリスクはあるということ。
危険な薬物に頼っても、カジュアルセックスをしても空虚な心の穴が埋まることはないということ。
そんな若さ故の不安定さと愚かさを描いていることもリアルであり、社会問題への言及がなさされていて考えさせられました。
水のような存在

ジアンナの部屋で遊ぶ友人たち:© tellfilm GmbH
本作を視聴していく中で、象徴的なものは水だということは冒頭で述べた通りです。
水がミアの心情のメタファーとなっていたと感じる印象的な点を以下にまとめました。
家族への拠り所がなく、彷徨う様子が特徴的に描かれている。
どうして欲しいか、何がしたいか明確な希望がない心は根無し草のような印象を受ける
・初めは淀みがなかった。
ジアンナ達との関係性が深化していくまでは澄み切っていたが、一瞬で淀んでいく。
以上の点が印象的に描かれていることで、美しくも儚い印象を受けました。
さらに、思春期の子どもに対して道を踏み外さないようにしていくのが大人の役目なのだと考えさせられるリアリティがあります。
人魚になった少女が表すこと

母と添い寝をするミア:© tellfilm GmbH
最終的に人魚になるミアもまた1人の少女であり、これは異質な体験の果てに独りで大海へと繰り出す少女の話として捉えることができます。
変化が最終段階を迎え、部屋で脚がヒレになったミアはジアンナを呼び出して、海まで運んでもらうのは親が留守の間の出来事です。
普通の少女でも就職や進学によって親元を離れる時がやってきます。
その時、どれだけ親友と親しくても、どれだけ家族に愛されていても独りで生きていかなリません。
本作では大海へと身を繰り出す人魚となったミアがその象徴。
こんな普遍的な出来事を人魚へと成長する少女として描いていることに斬新さを感じました。
まとめ

構内で寝てしまうミアとジアンナ:© tellfilm GmbH
少女の成長をリアルに描きつつも、人魚に変態していく異質な体験を交えた映画『ブルー・マインド』
日常と非日常を交えながら、水という透明感があり、流動的なものと少女の心情をメタファーとして用いていることが非常に巧みな演出だと感心しました。
静かで淡々と進む映画なので、好き嫌いが出るかもしれませんが、一見の価値ありです。
私は非常に楽しませて頂きました。
『ブルー・マインド』(2017)は2018年2月2日に公開されたフランス映画『RAW〜少女のめざめ〜』(2016)に類似している点があります。
『RAW〜少女のめざめ〜』(2016)も少女の成長を描いている映画。
こちらは社会的な問題というよりは文化的な要素が強い映画でした。
こちらはカニバリズムを題材にしており、美しさよりホラー要素が多い作品です。
流血に耐性がある方は併せて観ることで変化に揺れ動く少女の葛藤を観ることができるのでおすすめです!
ホラー映画のおすすめも紹介しているので、鑑賞する際に参考なれば幸いです。
https://minority-hero.com/cinema_recommend/1858/Horror/1858/