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映画『サスペリア』(2018)のラストの意味の考察と原作との違いを解説【あらすじ、感想、ネタバレあり】

1977年に公開され、今年のヴェネチア国際映画祭では衝撃的過ぎる内容から本年度最大の問題作と評された『サスペリア』(1977)のリメイクである本作。

「決して一人では見ないでください」のキャッチコピーも有名な本作について、原作の違いやラストやストーリー意味についてあらすじと感想をネタバレを交えて解説、考察していきます。
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『サスペリア』(2018)の作品情報とキャスト


SUSPIRIA サスペリア (字幕版)

作品情報

原題:Suspiria
製作年:2018年
製作国:イタリア、アメリカ
上映時間:152分
ジャンル:ホラー

監督とキャスト

監督:ルカ・グァダニーノ
代表作:『君の名前で僕を呼んで』『ミラノ、愛に生きる』

出演者:ダコタ・ジョンソン(スージー・バニヨン)
代表作:『フィフティ・シェイズ・ダーカー』『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』

出演者:ティルダ・スウィントン(マダム・ブラン/クレンペラー博士)
代表作:『ナルニア国物語シリーズ』『ミラノ、愛に生きる』

出演者:クロエ・グレース・モレッツ(パトリシア・ヒングル)
代表作:『キャリー』『キック・アス』

『サスペリア』(2018)のあらすじ

舞台は1970年代のドイツ、ベルリン。ボストンからダンサーを目指し渡独したスージー・バニヨン。

彼女は世界的舞踏集団「マルコス・ダンス・カンパニー」の入団試験に見事に受かり、カリスマ振付師としてその名を轟かすブラン夫人にその実力を認められる。

夫人の直接指導を受ける日々が始まるが、程なく彼女の周囲では同僚のダンサーが不可解な失踪を繰り返す事件が勃発。

その一方で、失踪した若いダンサーの担当医であった心理療法士のクレンペラー博士は独自に捜索を始め、その所在を突き止めていく中で舞踊団に隠された恐ろしい闇に気付き始める。

『サスペリア』(2018)の3つの見どころ!

サスペリア02

コンテンポラリーダンスを踊るスージー:©︎Courtesy of Amazon Studios

1.実はホラー映画ではない

1977年版の『サスペリア』のイメージと、キャッチコピー、それから”泉の広場の赤い服の女”を駆使した宣伝。

物語の本筋から宣伝に至るまで、ホラー要素満載でしたが、本作を観るとホラー映画ではないということに気付かされます!

2.狂気の熱演

舞踊団を中心に描いているので、ダンスシーンがたくさん出てきます。

コンテンポラリーダンス(暗黒舞踏)についての知識は殆どありませんが、キャストの熱演に息を飲みました!

3.当時の社会情勢を反映している

過去作のリメイクとあって、どうしても比較は避けられないものです。

名作と名高い作品をなぜ今のタイミングでリメイクする必要があるのか。

そんな疑問の答えが本作にはありました。

【ネタバレあり】『サスペリア』(2018)の感想

サスペリア

欠員が出た主役に名乗りをあげるスージー:©︎Courtesy of Amazon Studios

前述した3つの見どころを踏まえた上で、本作の感想を書いていきます。

『サスペリア』(2018)が描く不気味な演出

サスペリア

隠された部屋を探すサラ:©︎Courtesy of Amazon Studios

ナチス政権下における革命軍の戦いで死傷者が出たといったラジオやテレビが放送される社会情勢。

それから舞踊学校を魔女が支配しているという妄想に取り憑かれ、怯えるパトリシアで始まる本作。

彼女は、私の通う舞踊学校は魔女が支配している」「魔女が私の身体を乗っとうとしていると精神療法士であるクレンペラー博士に語ります。

しかし、クレンペラー博士は、パトリシアのボロボロの格好と、乱れた髪によって何か以上な気配を感じながらも魔女という非科学的な話を信じる気配はありません。

物語として、話を信じない前提で進んでいきますが、観ている人は全く異なる印象を抱くはず。

それは、パトリシアの話は本当なのではないかと思えてくるということです。

彼女の虚言と思える内容を事実と思える根拠となる要素が以下の通りです。

・不安定な社会情勢
・外での雷鳴と豪雨
・薄暗い建物の内部
・彩度を感じない衣装
・不気味な音楽
・狼狽するパトリシア

上記の要素を作品内で盛り込むことで、何か不吉な予感が感じられます。

薄暗さや彩度の低さと鮮明な赤の対比いった視覚的効果と、雨天の轟音とトムヨークによる歪んだメロディーとストリングスによって不気味さを感じる音楽の聴覚的効果。

両者を巧みに駆使することで作品の世界観に引き込まれます。

ルカ監督は、前作『君の名前で僕を呼んで』で、イタリアを舞台にした美しい恋愛模様を描いていました。

そんな前作とは全く異なるアプローチを行う彼の手腕に驚かされました。

スージー・バニヨンが象徴するものを解説

サスペリア

マダム・ブランから逃げ出すオルガ:©︎Courtesy of Amazon Studios

舞踊学校で次々と発生する少女たちの失踪。

それは、魔女である先生達が生贄として少女を誘拐しているからでした。

最初の犠牲者となるオルガは、スージーの舞踏とシンクロすることで、全身の骨や関節が意図しない方向に曲がって、死亡します。

次々と起きる失踪と惨殺に終わりを告げる存在が魔女となったスージーです。

スージーは魔女となり、惨殺を救うわけですが、彼女がなぜ魔女になったのかということには疑問が残ります。

その答えを推察すると、彼女は1970年代の沈黙を破る存在だったからではないでしょうか。

スージーはマダム・ブランから洗礼を受けた後、実力を発揮し、主役として活躍するにふさわしい力強い舞踊を身につけていきます。

彼女は成長していくに従って、夢の中で魔女と同期したり、先生の心情を理解できたりと、パトリシアが経験してきたことを乗り越え魔女としての素質を伸ばしていたのです。

変化していくことを恐れて、狼狽していたパトリシアに対して、スージーは自ら疑問に対する答えに近づいていきます。

・ヴォーク公演の主役に自ら名乗りを上げる。
・失踪したダンサーの手掛かりを探す場面では、先生達が捜査に訪れた警察官の服を脱がせる光景を発見する。
・魔女である先生達と共に食卓を囲む。

彼女の行動は好奇心に満ち溢れ、挑戦的であるという印象を受けます。

この点に関しては、1970年代当時の時代感と共に後ほど詳説しますが、勇敢で知的好奇心に満ちた彼女は魔女にふさわしい存在だったのだと考えられます。

惨劇の連続を救う存在であるマザー・サスペリアムを解説

サスペリア

スージーがマザー・サスペリアムであることが明らかになる:©︎Courtesy of Amazon Studios

クライマックスの地下室でのスージーの行動は、これまで魔女が行ってきた所業にたいする制裁。

クレンペラー博士が裸で横たわり、ダンサーも裸で荒々しく踊り、儀式の一室。

並みの精神力の人なら逃げ出したくなる局面でもスージーは逃げ出しません。

スージーは、マルコスの新たな容れ物になる予定でしたが、マルコスはマザー・サスペリアム(溜め息/嘆きの母)ではないということを暴きます。

スージーの身体には既にマザー・サスペリアムが宿っていた為、マルコスの嘘を見抜くことができたのです。

彼女に宿ったマザー・サスペリアムは、その名の通り、溜め息をしていて、胸にあるものは女性器を彷彿とさせます。

そんな彼女は全ての者を苦痛から解放する存在だったということから魔女というよりは聖母に近い存在なのだと思います。

根拠となる要素が下記2つです。

1.聖母に近い容姿

サスペリア

十字架の足元で七つの剣に胸を刺されている聖母

マザー・サスペリアムが宿ったスージーの胸にある女性器のようなものと聖母マリアの胸にある心臓

両者が類似していることからも、苦痛から解放してくれる聖母のような存在だと思わされます。

2.魔女の力を得たスージーが起こす行動

スージーによる苦痛からの解放
1.マルコスとマルコスを支持していた先生達を次々に殺害し、舞踊学校を崩壊させる。

これでもう魔女の生贄となる被害者が増えることはない。

2.魔女の生贄となり、パトリシア、オルガ、サラに対して口付けで死を与える。

人間としての尊厳も失ったような姿の生贄は、生き続けることの方が苦痛であり、死を与えることが最良の選択である。

3.クレンペラー博士の記憶を消し去る。

生き証人として惨劇の場面を見守っていた彼は、ナチス政権下の体制に対して反発せず、妻が捕らえられたことに自責の念を感じている。

記憶が消せば彼の思い出は喪失するが、苦痛からは解放される。

これら行動の全てが魔女が行う恐ろしいことではなく、善行に思えます。

だからこそ、彼女は魔女という恐ろしい存在というよりは聖母に近い存在だと考えられるのです。

『サスペリア』(1977)と『サスペリア』(2018)の違いとは?

サスペリア

舞踊学校の異変に気づくサラ:©︎Courtesy of Amazon Studios

『サスペリア』(1977)と『サスペリア』(2018)は、様相が大きく異なり、『サスペリア』(1977)の監督であるダリオ・アルジェント監督は『サスペリア』(2018)を鑑賞して全然違う作品だと指摘し、激怒したそうです。

このことからも大きく違う作品ということが分かるかと思いますが、『サスペリア(1977)』と本作の大きな違いは、娯楽映画から芸術映画への転換にあります。

前作は、娯楽映画として徹底的に残虐な死に様を様式美的に描いた作品でしたが本作は、1977年当時のベルリンの社会情勢と女性の強さに着目。

ルカ監督は、スージーが訪れる舞踊学校はベルリンの壁の真横にある上に1970年代の社会情勢が全く描かれていないことに違和感を覚えて独自の解釈を盛り込んでいきました。

その違いが下記の通りです。

『サスペリア(1977)』と『サスペリア(2018)』の違い
・当時の社会情勢を色濃く描いている
・クラシックバレエではなく暗黒舞踏
・女性の強さを印象的に描いている
・楽曲がゴブリンからトムヨークに変化

これだけ前作との違いがあれば、全く違う作品といっても過言ではなく、ナチス政権下の名残を残した不安定な社会情勢から始まることも納得できます。

なぜ今になってサスペリアをリメイクしたのか?

サスペリア

クレンペラー博士:©︎Courtesy of Amazon Studios

ルカ・グァダニーノ監督が元となった1977年の『サスペリア』に強い衝撃を受けたことは監督自身が語っています。

しかし、なぜ今になって『サスペリア』をリメイクするのか。

そのためには、過去と現代の時代性を照らし合わせて考える必要があります。

1.過去と現代に通じる分断

本作の中心となる1970年代は、ナチスのユダヤ人に対する弾圧ととベルリンの壁によって東と西のドイツが分断されていた時代。

ホロコーストに代表される愚かな道のりを歩んでいた悲惨な出来事が過去にはありました。

今ではありえないと考えるかもしれませんが、実は今も分断が起きようとしています。

それは密輸や密入国を防ぐことを目的としたメキシコとアメリカの南北を隔てる壁を立てるトランプ政権

ナチスの旧体制と舞踊学校での魔女が牛耳る体制。

作品内でクレンペラー博士が「魔女の存在は信じないが、思想や宗教を掌握し、集団を操ることはできる」という旨の内容を話していたことからも両者が重要な接点を持っていると推察できます。

2.女性の強さが注目される時代

クラシックバレエは女性が嫋やかに踊るものですが、本作の暗黒舞踏は荒々しく力強く、官能的な雰囲気が感じられます。

1970年代であれば、女性が好奇心や向上心を持って勇ましくあること官能的な踊り攻撃的とも見なされてしまうでしょう。

しかし本作では、当時では考えられない女性の立場を強く描かれています。これはハリウッドの著名人たちが賛同した”#MeToo運動”。

近年公開された映画の『アリー/スター誕生』や『ワンダーウーマン』からも分かる女性の立場や強さが注目されている現代を投影したものです。

決して忘れ去られてはならない歴史と、過去によって変化してきた現代の価値観

以上の2つの要素があるからこそ、名作をリメイクし、『サスペリア(2018)』が公開された意味があるのだと思います。

『サスペリア』(2018)のまとめ

サスペリア

舞踊団:©︎Courtesy of Amazon Studios

残虐シーンと荒々しくも官能的な暗黒舞踊が印象的な『サスペリア』(2018)。

社会的要素を盛り込みながら前作のリスペクトを感じさせる本作は、152分という時間を長く感じさせない作品でした!

トム・ヨークの音楽もティルダ・スウィントンの演じ分けにも脱帽でした。

魔女とはどのような存在なのかそんな疑問の答えとなるような妻を救うことができなかった生き証人であるクレンペラー博士とスージーとのやり取り。

そして、壁に刻まれた二人のイニシャルと、物語の核心に迫るエンドロール後のラスト5秒。これには、どのようなメッセージが詰め込まれているのか。

この点に関しても意見が分かれそうですが、当時の社会情勢や現代、そして魔女の存在。前述してきた内容を踏まえるとその答えがありそうです。

鑑賞後にトラウマになるかもしれないホラー映画をおすすめランキングとして紹介しているので、合わせてチェックしてみてください。

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