
『メッセージ』(2016)は、世界各地で未知の巨大物体が現れ、その中に潜む未知の生命体とコンタクトをとろうとするSF映画です。
監督は、ドゥニ・ヴィルヌーヴ。
本作は、アカデミー賞に計8部門ノミネートされ、アカデミー音響編集賞を受賞、英国アカデミー賞では音響賞を受賞しました。
言語学と時間に焦点を当てた傑作SF映画『メッセージ』(2016)について、感想・考察、原作や元ネタを解説していきます!
【『メッセージ』(2016)の評価】
項目 | 評価 | 点数 |
知名度 | ★★★★☆ | 80点 |
配役/キャスト | ★★★★☆ | 70点 |
ストーリー | ★★★★☆ | 80点 |
物語の抑揚 | ★★★★☆ | 70点 |
SF | ★★★★☆ | 85点 |
難解度 | ★★★★☆ | 80点 |
目次
『メッセージ』(2016)の作品情報
製作年 | 2016年 |
原題 | Arrival |
製作国 | アメリカ |
上映時間 | 116分 |
ジャンル | SF |
監督 | ドゥニ・ヴィルヌーヴ |
脚本 | エリック・ハイセラー |
原作 | あなたの人生の物語 |
主要キャスト | エイミー・アダムス(ルイーズ・バンクス)/ 日本語吹替:中村千絵
ジェレミー・レナー(イアン・ドネリー)/ 日本語吹替:加瀬康之 フォレスト・ウィテカー(ウェバー大佐 )/ 日本語吹替:立木文彦 ツィ・マー(シャン上将)/日本語吹替:堀越富三郎 |
『メッセージ』(2016)の概要

ルイーズ・バンクス:ⒸParamount Pictures Corporation
ルイーズ・バンクスは、言語学者として大学で働いていた。
ある日、世界各地で未知の巨大物体が出現する。
彼ら(未知の生命体)は何のために地球へ来たのか。
彼ら(未知の生命体)が地球上に来た理由を探るため、ルイーズと科学者のイアン・ドネリーなどが未知の巨大物体の中に入り、コンタクトをとろうとする。
ルイーズらの前には透明の壁があり、その奥には触手を持った謎の生命体がいた。
彼らはその触手から黒い文字のようなものを発射して、ルイーズらに何かを伝えようとする。
彼らは何を伝えようとしているのか。
ルイーズらは彼らの言語の解読に挑む。
『メッセージ』(2016)の感想と考察

ルイーズ・バンクス:ⒸParamount Pictures Corporation
『メッセージ』(2016)の感想
『メッセージ』は、SF映画ではありますが、未知の物体(生命体)と対峙した人類を描いたヒューマンドラマや愛の物語でもあります。
未知の物体や生命体が地球上にやってくる作品は珍しくはないのですが、本作が他の作品と一線を画している点は時間と言語(文字)に焦点を当てていることです。
彼らが発する文字はもちろん未知の文字なので、解読できません。
その未知の文字を解読し、彼らは一体何を伝えようとしているのか、というミステリー性が本作の見どころ。
そして人類は、未知の物体(生命体)と対峙した時、一体どのような対応をとり、どう行動するべきなのか。
考えさせられる点もあります。
しかし、本作はそれだけではありません。
緻密に構成されたストーリーとラストにある衝撃の展開も必見!
言語や時間を扱うなど、難解な点もあるストーリーではありますが、ぜひ最後まで観ていただきたいです。
『メッセージ』(2016)の考察
始まりの終わり、終わりの始まりというループ構造が、『メッセージ』(2016)には隠されているといえるのではないでしょうか。
というのも、本作はルイーズと娘のエピソードでストーリーが始まり、彼女がイアンと結婚して娘を産むことを予感させるシーンで幕を閉じるという構造になっているからです。
さらにその構造は「死生」を表現しているようにも考えられます。
つまり、我々人類、そして命あるこの世の生物は、この世に誕生し、そして死ぬことを繰り返して(ループして)きました。
新しい命が生まれて、古き命は終わり、また新しい命が誕生する。
そのような死生観を本作では表現しているように思うのです。
もう少し別の見方をすれば、私たちは「生まれて死ぬ」という一つの過程をループしているのかもしれません。
いわゆる「輪廻転生」です。
未知の生命体が発する文字もループ構造を想起させます。
もしかしたら、本作に魅せられるのは言語学と時間に焦点を当てたのではなく、実は死生観に焦点を当てていたからなのかもしれません。
『メッセージ』(2016)に登場する宇宙人の特徴を一覧にして解説

未知の生命体:ⒸParamount Pictures Corporation
ここでは『メッセージ』(2016)に登場する宇宙人の特徴を解説していきます。
前と後ろがない、7つの眼が頭部を取り巻いている
『メッセージ』(2016)に登場する宇宙人は、前と後ろがない、7つの眼が頭部を取り巻いています。
全体的に黒色で、人間よりも巨大であるのが特徴。
人類は彼らのことを「ヘプタポッド」と呼びました。
前と後ろがない、つまり、未来も過去もないという宇宙人の特徴も表しているのです。
言葉ではなく、文字でのコミュニケーション
宇宙人は、言葉ではなく、文字でのコミュニケーションを図ります。
触手から黒いインクのようなものを放出し、それを飛び散らせるようにして円のような文字を作ります。
彼らの文字をヴィジュアルで表現するために、製作スタッフたちは辞書まで作り、100字以上の異なる文字を参照できるようにしたそう。
劇中にはその中の71字が実際に使用されています。
さらに理論物理学者のスティーヴン・ウルフラムとその息子クリストファーを招き、ロゴグラムの文法を体系化していくために解析を依頼。
この際の解析手法が映画でルイーズとイアンがロゴグラムを解析するシーンに採用されました。
宇宙人の未知なる文字を作り出すだけでも相当な努力があったことが分かります。
文字は行であり、単語がない
宇宙人の文字は行であり、単語がありません。
円形のロゴグラム(表語文字)を書き、一見、それが文字なのかどうかも分からないものです。
「それが言語であるということを観客に悟られたくなかった」と言うのは、プロダクションデザイナーのパトリス・ヴェルメット。
彼の妻であるマーティーン・バートランドが、15字のデザインをスケッチし、それが映画で使われました。
ロゴグラムの太さにも意味があるそうで、太めのものは切迫した状態を表し、細めのものは穏やかな様子を意味するそう。
このデザインにより、構文や並びにとらわれることなく、ひとつの文字が行となり、あらゆる意味を表現することができるのです。
つまり、私たちが普段使う漢字に近いもので、ひとつの文字(円形のロゴグラム)でひとつの文章(意味)みたいになっているというわけです。
タコのような見た目
宇宙人は下半身に触手があるタコのような見た目が特徴的な姿をしています。
彼らは下半身の触手から黒いインクのようなものを放出して円のような文字を作り、コミュニケーションを図ります。
私たちには想像つかない姿にしたかったのかもしれません。
意味不明?映画『メッセージ』(2016)の疑問や難しいポイントを解説

未知の生命体:ⒸParamount Pictures Corporation
言語学に焦点を当てたSF映画
宇宙人と接触する映画は複数ありますが、『メッセージ』(2016)の特筆すべきポイントは、言葉に焦点を当てていることです。
言葉には、言語学上の理論があり、「サピア・ウォーフの仮説」という仮説が存在します。
簡単に言えば、「言葉の形、文法によって考え方が全然違う」という説。
例えば世界には様々な言葉がありますが、日本語と韓国語は世界の文法の中では特殊で、結論が最後に来ます。
こういった文法や言葉の違いで性格や思考が違ってくるというわけです。
日本人の空気を読んだり、はっきりしない性格は日本語という特殊な文法によるものなのかもしれません。
本作ではルイーズが宇宙人の言葉を解読(勉強)していくうちに、宇宙人特有の概念や思考も学び、過去・現在・未来がないという時間的概念も変わっていくのです。
『メッセージ』(2016)に登場する時間の概念を解説
『メッセージ』(2016)に登場する時間の概念は、過去・現在・未来がないという概念です。
普通、時間というものは、過去→現在→未来という流れですが、本作の宇宙人は過去・現在・未来という概念(流れ)がありません。
これを「同時的認識様式」(事象を同時に経験し、その根源に潜む目的を知覚する認識様式)と言います。
例えるなら私たちの時間概念が「川」だとしたら、宇宙人の時間概念は「海」と言えるのではないでしょうか。
始まりも終わりもなく、どこにでも行ける(ループ構造)という概念であると言えます。
宇宙人はなぜ人類に文字を教えたのか解説
宇宙人がなぜ人類に文字を教えたのかは明確にはなっていません。
宇宙人は、人類とコミュニケーションを図るために文字を教えたと言えるでしょう。
また、もう一つの理由としては、ルイーズに宇宙人の時間概念を授けるために文字を教えたとも言えます。
最後の中国語の意味とはなにかを解説
シャン上将の妻が最後の言葉として残した中国語の意味とは何なのでしょうか。
謎の中国語の意味には、
「General,there are no winners in war, only widows and orphans.」
「将軍、戦争では勝者などないのです。あるのは未亡人と孤児だけです。」
という意味があるのだそう。
妻の最後の言葉を聞いたシャン上将は宇宙人への攻撃を中止したのです。
ヘプタポッドが地球へやって来た目的とはなにかを解説
ヘプタポッド(宇宙人)が地球へやって来た目的は謎のままでした。
「3000年後に地球人類に救ってもらうからだ」と彼らは言ったのですが、その発言も謎のまま。
人類が3000年後まで続いていくように、知恵(言語・同時的認識様式)を授けに来たと言えるのですが、3000年後、知恵(言語・同時的認識様式)がどのような形で彼らを救うのかは、分かっていません。
宇宙人からのメッセージ「3000年後の未来」の意味を解説
「3000年後の未来」の意味も劇中では明言されませんでした。
3000年後にヘプタポッド(宇宙人)に何かしらの危機が訪れるのではないかと推測できますが、一体どのような危機が訪れるのかは分かりません。
ヘプタポッド(宇宙人)が滅亡するとか、星に住めなくなるとか、あるのではないでしょうか。
『メッセージ』(2016)の原作や元ネタ、映画と本の違いを解説

ルイーズとイアン:ⒸParamount Pictures Corporation
映画『メッセージ』(2016)の原作
映画『メッセージ』(2016)の原作は、テッド・チャンの短編小説『あなたの人生の物語』。
小説は、表題作の『あなたの人生の物語』をはじめ全8篇が収録されており、SF部門の権威ある賞、ネビュラ賞やスタージョン賞、ヒューゴー賞を受賞しました。
ハヤカワ文庫SFより発行されています。
映画『メッセージ』(2016)の元ネタ
ヘプタポッドの宇宙船は日本でお馴染みのお菓子”ばかうけ”をイメージした形になっているのですが、実はこのデザインは小惑星エウノミアがモチーフ。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督はエウノミアの形に魅了され、宇宙船に脅威とミステリアスな感覚をもたらしてくれるだろうと考えたそう。
そんなドゥニ・ヴィルヌーヴが監督したSF映画『ブレードランナー 2049』(2017)にも注目です。
原作の本と映画との違いを解説
映画は原作をベースにしたのではなく、インスパイアされたという印象。
映画と原作の違いとしては、映画ではルイーズの知覚が変化する様子が、「サピア・ウォーフの仮説」を強調するように描かれています。
また、原作と違って映画では、ヘプタポッド(宇宙人)に戦争を仕掛けようとするなど、中国人が印象の良くない描き方をされていました。
アメリカと中国の関係が映画にも表れたのかもしれません。
映画『メッセージ』(2016)で使用された楽曲や音楽を解説

宇宙船:ⒸParamount Pictures Corporation
『メッセージ』(2016)の音楽は、アイスランド出身の作曲家ヨハン・ヨハンソンが担当し、オープニングとエンディングの曲はドイツ出身の作曲家マックス・リヒターの作品 『On the Nature of Daylight』が使用されました。
ヨハン・ヨハンソンとマックス・リヒターは、ポスト・クラシカルの二大巨頭と呼ばれており、ヨハン・ヨハンソンはゴールデングローブ賞で作曲賞を、マックス・リヒターはヨーロッパ映画賞作曲賞を受賞しています。
本作でもその才能を遺憾なく発揮し、壮大なSF作品にふさわしい音楽を提供しています。
特にオープニングとエンディングを彩る楽曲『On the Nature of Daylight』は印象的。
静謐で美しいクラシックな旋律が宇宙からやってきた未知の生命体との遭遇を想起させます。
『メッセージ』(2016)の最後は? ラストシーンや結末を解説

ルイーズとイアン:ⒸParamount Pictures Corporation
『メッセージ』(2016)の結末・ラストシーン
『メッセージ』(2016)のラストでは、ルイーズがシャン上将に電話をして攻撃を中止させました。
その後、ヘプタポッドの宇宙船は静かに向きを変え、消えていきます。
将来、イアンとは別れ、娘を病気で亡くしてしまうことを知ったルイーズでしたが、イアンのプロポーズを受け入れることに。
ルイーズは、娘とイアン、3人でいる記憶を思い起こし、ルイーズとイアンは静かに抱き合うというラストになりました。
『メッセージ』(2016)の最後の解釈と考察
『メッセージ』(2016)は最後でも考えさせられる非常に奥深い内容です。
ルイーズはヘプタポッドの時間概念(同時的認識様式)を会得し、未来の出来事を見通せるようになりました。
その結果、イアンとは別れ、娘を病気で亡くしてしまうという悲しい未来が待っていることを知るわけですが、それでもルイーズは愛のない未来よりも愛のある未来を選んだのです。
もしかしたらヘプタポッドは「愛」を伝えに、そして「愛こそが武器」であると教えるためにやってきたのかもしれません。
『メッセージ』(2016)の評価・評判

ルイーズ・バンクス:ⒸParamount Pictures Corporation
【つまらない?】低評価のレビュー
『メッセージ』(2016)の低評価はどのようになっているのでしょうか。
映画のレビューサイトをまとめてみると、
という低評価レビューがありました。
「よく理解できない」「よく分からない」という難解な内容が低評価となってしまっているようです。
確かに本作は時間概念や言語学などあまり馴染みのないものを扱っているため、難しく感じてしまうのではないでしょうか。
分からなかった人は、いろいろな考察やレビューを読み込んでみると、本作の奥深さが分かるのではないかと思います。
【面白い?】高評価のレビュー
『メッセージ』(2016)の高評価はどのようになっているのでしょうか。
映画のレビューサイトをまとめてみると、
という高評価レビューがありました。
傑作と称賛するレビューも多く、今までにない感覚を味わえるという高評価のレビューが多いです。
全体的に賛否両論があり、評価が二分されているという印象。
ハマる人にはハマるけど、ハマらない人にはハマらないという感じでしょうか。
内容が難解なだけに、作品が理解できると本作の面白さが分かるのではないかと思います。
日本の映画レビューサイト映画.comの点数は5点満点中3.6という評価になりました。
『メッセージ』(2016)の総合評価:新感覚SF映画!

ルイーズとイアン:ⒸParamount Pictures Corporation
時間や言語に焦点を当て、緻密に構成されたストーリーで魅了した『メッセージ』(2016)。
愛や死生観も裏テーマとしてあるのではないかと思います。
傑作SF作品と称されるのも納得。
ヘプタポッド(宇宙人)やばかうけの宇宙船は必見。
難しい内容ではありますが、その分、奥深い内容となっているので、ぜひ観ていただきたいSF映画です。
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