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少女の中に潜む狂気! サイコホラー映画『エスター』(2009)が描いた恐怖を結末・ラストとともに解説【あらすじ、感想、ネタバレあり】

『エスター』(2009)は、養子に迎えた少女が、里親一家を崩壊させていく物語。

幼い少女が凶行を犯すという、センセーショナルなサイコサスペンス作品です。

9歳の少女の狂気は、当時12歳の女優イザベル・ファーマンが鬼気迫るほどに演じきっています。

彼女の狂気そのもののほか、信じてもらいたい人から浴びせられる言葉の刃も残虐です。

八方ふさがりになっていく主人公の姿は、思わず感情移入してしまうほどに見ていられません。

本記事では、本作の元ネタや恐怖の理由とともに、複数の結末を評価を交えながら解説していきます。

『エスター』(2009)の作品情報とキャスト


エスター (吹替版)

作品情報

原題:Orphan
製作年:2009年
製作国:アメリカ
上映時間:123分
ジャンル:サスペンス

監督とキャスト

監督:ジャウム・コレット=セラ
代表作:『トレイン・ミッション』(2018)『ロスト・バケーション』(2016)

出演者:ヴェラ・ファーミガ/吹替:八十川真由野(ケイト)
代表作:『トレイン・ミッション』(2006)『死霊館』(2013)

出演者:イザベル・ファーマン/吹替:矢島晶子(エスター)
代表作:『マックス&エリー ~15歳、ニューヨークへ行く!~』(2016)『セル』(2015)

出演者:ピーター・サースガード/吹替:佐久田修(ジョン)
代表作:『The Sound of Silence』(2019)『フライトプラン』(2005)

『エスター』(2009)のあらすじ

ケイト、ジョンとエスター:© 2009 Dark Castle Holdings, LLC.

元アルコール依存症で、以前はピアノの教師をしていたケイト。

彼女はかつて3人目の子供を流産し、以来悪夢に悩まされていた。

一向に回復しない妻を心配した夫のジョンは、養子を迎えることを提案。

孤児院で彼らはエスターという名の9歳の子と出会い、彼女を迎えることに。

ロシア出身のエスターは、非常に賢く、時折大人びた一面を見せる子供だった。

耳の聞こえない妹マックスのために、あっという間に手話を覚えてしまうほど。

ただ、好んで着る服や、浴室のドアの鍵をかけて風呂に入るなど、風変りなところもあった。

あるとき、兄ダニエルが誤ってハトにペンキ銃を当ててしまう。

それを見ていたエスターは、彼に大きな石を渡し、瀕死のハトを殺すよう指示。

ダニエルができないと言うと、彼女は自らその石で撲殺してしまう。

いじめっ子を公園で見つけると、彼女を突き飛ばして大けがを負わせ、自分はやっていないと嘘をついた。

エスターを迎えて以来、周りで不都合や事故が頻発していることを疑問に思うケイト。

しかし、ジョンには取り合ってもらえず、エスターは自分を疑った彼女に冷たく接するように。

何かが、この一家をむしばみ始めていた……。

【ネタバレあり】『エスター』(2009)は実話? 元ネタや原作はある?

盗み聞きするエスター:© 2009 Dark Castle Holdings, LLC.

『エスター』(2009)には原作はなく、実際の事件に基づいた物語でもありません。

ただ、この話に非常によく似た実際の事件が、本作公開後に明らかになっています。

それが、"リアルエスター事件”とも呼ばれる、1人の少女の話です。

2019年、衝撃的なニュースが舞い込んできました。

アメリカ、インディアナ州のバーネット夫妻は、2010年にナタリアという少女を養子に迎えます。

だが彼女は次第に攻撃的な態度を取り始め、手が付けられないほどに。

彼女の素性を調べると、なんと22歳の成人女性だったのです。

見た目は幼く、8歳の子供だと言われれば誰も疑いません。

成人ということであれば義務教育を終えているため、夫妻はナタリアを残してカナダに移住。

しかし、2014年にバーネット夫妻は逮捕されてしまいます。

通報者はなんとナタリアで、育児放棄されたと言ったのです。

以来、この事件は2019年現在も係争中。

本作を端的に言えば、1人の少女が奇怪な行動を見せ、里親一家を崩壊させていく物語です。

ナタリアの事件も全く同じことが見てとれます。

その経緯はあまりに酷似しており、まさに"リアルエスター事件”。

"事実は小説よりも奇なり”とは、よく言ったものです。

【ネタバレあり】エスターは病気だった?

ツリーハウスを燃やすエスター:© 2009 Dark Castle Holdings, LLC.

病気を疑う要因①:先天的・肉体的なもの

『エスター』(2009)のメインキャラクターであり、最凶の存在であるエスター。

彼女は、病気(というより先天的な発達障害)を持っています。

エスターは、先のナタリア同様、少女ではありません。

体こそ少女のままですが、実際は33歳の成人女性。

下垂体性機能不全と呼ばれる、珍しいホルモン異常による発育不全を抱えています。

なんと、『エスター』(2009)という作品は、少女による凶行ではありませんでした。

エスターという名前も偽名、何から何まで偽っていたのです。

病気を疑う要因②:後天的・精神的なもの

彼女にはもう1つ、大きな"病”があります。

それが、サイコパスであるということ。

冷淡で平然と嘘をつき、人や生き物を傷つけることに罪悪感どころか疑問すらも持ちません。

本名"リーナ”という女はもともと、ロシアの精神病院に収容されていました。

非常に攻撃的で、収容される前に7人を殺害した経歴持ち。

病院では職員を守るため、彼女に拘束衣を着せていたほど。

自分のことしか頭になく、そのために平然と周囲を傷つける彼女は、正真正銘のサイコパスです。

常識の枠外にあって、精神病院にまで入れられていることからも、心を病んでいるともいえるでしょう。

その全てが病んでいるエスター。

とはいえ、彼女が行ってきた行為は、決して病のせいにして許されるものではないのです。

【ネタバレあり】『エスター』(2009)は怖い? 感想と考察を紹介!

マックスを脅迫するエスター:© 2009 Dark Castle Holdings, LLC.

『エスター』(2009)は、コールマン一家が壊れゆく展開が実にスリリングです。

特に、主人公のケイトが追い詰められていく様は思わず手に汗握るほど。

そんな本作における怖さのポイントは、大きく2つに分かれます。

ここからは、その2つのポイントから、本作の怖さとその理由についてみていきましょう。

怖さの理由①:エスター自体の怖さ

先述の通り、エスターはサイコパスです。

常識の範ちゅうを超えた行動は、常人では想像できません。

ジョンのケイトに対する不信感を強めるため、ときには自らの手を万力で挟んで折ることも。

ここまでくるともう何も言えません。

極めつけは、バラの花をケイトにプレゼントしたときのこと。

彼女は、亡くなった娘ジェシカの灰入りの土で育てていたバラを、全て切り取って渡したのです。

徹底的にケイトを追い込み、ジョンを引きはがそうとする執念。

ただでさえメンタルの弱いケイトを、精神的に追い詰めていくのです。

このように、何をするかわからない予測不可能さが、彼女に対する恐怖心をより一層あおります。

また、徐々に大人の部分を出してくるところもえげつなさ十分。

ときに9歳の少女とは思えないことを口に出すエスター。

ケイトと対等に渡り合い、ジョンには色目を使うなど、この上なく不気味なのです。

これが33にもなるいい歳の女だとなれば、何ら違和感はありません。

しかし、彼女の見た目は9歳で止まったまま。

外見と内面のすさまじいギャップこそが、彼女自身の持つ怖さなのです。

怖さの理由②:独りになっていく怖さ

本作を観ていてヒヤッとするポイントのもう1つが、独りになっていく点。

コールマン一家はみな”独り”になるよう、エスターに仕向けられていくのです。

特に顕著なのがケイト。

彼女は昔、酒におぼれていた時期がありました。

今は子供たちのために断酒していますが、誘惑がないわけでもありません。

彼女に貼られたこのレッテルが、徐々に重くのしかかっていきます。

ケイトは違和感を感じ始めた頃からジョンに相談していましたが、彼は聞く耳もたず。

ダニエルやマックスの様子がおかしくなると、語気を強めてジョンに詰め寄ります。

しかし、ここで彼女は夫から信頼されていないことが明らかに。

アルコール依存症になっていたような人間の話を信じるのは無理だとまで言われる始末。

義理の母親からもなじられ、カウンセラーは依存症のせいだの一点張り。

まるで"オオカミ少年”の如き扱いを受け、彼女は孤立無援状態になっていくのです。

子供たちも同様にエスターに巧みに操られることに。

マックスは口がきけないのをいいことに、孤児院のシスター殺害を手伝わされます。

その後凶器を隠しにツリーハウスに入る2人を見たダニエルは、その夜に脅されて口を閉ざしました。

このような状態のため、子供たちからエスターに関する情報が聞き出せないケイト。

彼らは独りきりでますます追い込まれていきます。

凶暴性を露わにし、返り血を浴びながら人殺しをするエスターは異常そのもの。

ただ、彼女の真に怖ろしいところは、人を精神的に追い詰めることに長けている点でしょう。

恐怖に加えての寂しさ、そして事態を好転できないやりきれなさ。

作中を通して降り続ける雪が、ケイトたちの孤独感を一層引き立たせています。

【ネタバレあり】『エスター』(2009)の結末・ラストを解説

ISABELLE FUHRMAN as Esther in Dark Castle EntertainmentÕs horror thriller ÒOrphan,Ó a Warner Bros. Pictures release.

『エスター』(2009)のラストを紹介し、本作が迎える結末をみていきます。

ついにダニエルが瀕死の大ケガをしてしまう事態にまでなったケイトたち。

はたして彼女は、夫からの信頼を取り戻し、エスターの正体を暴くことができるのでしょうか。

『エスター』(2009)のラスト

今まで見てきたエスターの凶行をマックスから聞き出したダニエル。

急いでツリーハウスに向かいましたが、隠した場所はもぬけの殻。

そこに来たエスターの手には凶器の入ったバッグがありました。

彼女はバッグの中の証拠に油をまいて火を付けます。

火はハウス全体に引火し、ダニエルは中に閉じ込められてしまいました。

屋根に上るも行き止まり、彼はイチかバチか飛び降り、地面に強打して意識を失います。

息のあるダニエルをエスターが殺そうとしますが、マックスがこれを阻止。

ハウスの火を見て飛んできたケイトに保護されました。

ダニエルは病院に運ばれ、集中治療室へ。

辛うじて命をつなぎとめるも、エスターに酸素マスクを外され再び命の危機に。

限界に達したケイトは、ついにエスターに手を上げます。

興奮状態の彼女は鎮静剤を打たれて取り押さえられ、エスターはジョンたちと帰宅することに。

そこに、連絡を取っていたロシアの精神病院から電話が入ります。

エスターに関する衝撃の真実を知ったケイトは、急いで家へと戻りました。

家では、ジョンの誘惑に失敗したエスターが逆上し、ジョンを刺殺。

見ていたマックスを殺そうと探し回るところに、ケイトの車が突っ込んできます。

温室に隠れていたマックスを見つけたケイトは、近くまで来ていたエスターに飛びかかり、気絶させます。

家から離れた2人は、警察の救援に安堵しました。

しかし、追いかけてきたエスターと取っ組み合いになり、凍った池の上へ。

マックスが落とした拳銃を手に取り撃つと、弾丸は水面の厚い氷を割りました。

表面に穴が開き、水中に投げ出されるケイトとエスター。

辛くもはいずり出たケイトは足につかまったエスターを蹴落とし、振り払います。

最後は、極寒の湖の底へと沈んでいくエスター。

生き残った2人は、ようやく警察に保護されます。

『エスター』(2009)の結末

ラストシーンから見てとれる『エスター』(2009)は、決してハッピーエンドではありませんでした。

ケイトとマックスはなんとか生き延びることができましたが、ジョンは死亡。

ダニエルも未だ生死の境をさまよっています。

メインキャラが生き延びた救いはあるものの、決して後味のよいものではなかったでしょう。

何より、エスターの生死が明らかになっていません。

はっきり言って、作中の出来事は今後立ち直れなくなるぐらいのトラウマを植え付けるほどのもの。

いつどこで再び現れるかわからない恐怖心は、容易に想像できることでしょう。

同時に、これはメタな考え方ですが、観る側の期待感は高まります。

エスターという人物のインパクトは十分過ぎるほどあるので、つい妙な期待をしがちです。

いずれにせよ、ほとんど全てのものを失ってしまったケイト。

彼女を待っている未来はこれまで以上に厳しいものとなるでしょう。

2人で立ち向かっていけるのか、その点だけはどうしても心配になります。

【ネタバレあり】『エスター』(2009)の評価

独り追い詰められていくケイト:© 2009 Dark Castle Holdings, LLC.

さてここでは、『エスター』(2009)に関する評価を私見を交えて述べていきます。

率直に言えば、いい意味で期待を裏切ってくれるお手本のような作品です。

本作を観る前は、サイコパス少女の凶行がメインの話だと思っていました。

だがふたを開ければびっくり、サイコパス三十路女の凶行だったわけです。

ところが、エスター役のイザベル・ファーマンは、公開当時の2009年はまだ12歳。

10代前半であの演技は見事の一言。

末恐ろしい才能の持ち主であると思わずにはいられません。

物語の佳境、ジョンにフラれたエスターがメイクを落とすシーンは、大人の顔にしか見えませんでした。

といった演技の素晴らしさも相まって、結末の予想は一気にひっくり返されます。

大人と子供という、ある意味対極の存在を用いた視点ずらしは、純粋に驚かされました。

また、恐怖心のポイントをエスター自体のみとしていない点も評価できます。

本作の構図は、エスターという強烈な狂人に対し、正常なそれ以外の人々というもの。

けれども、ケイトはそんな正常な人々にも追い詰められます。

ジョンや義母やカウンセラーの言葉は、彼女にとって刃でした。

正常な人々によって狂人とされてしまう異常さ、そしてその怖ろしさ。

世の中に普遍的に存在する恐怖の在り処を多角的に示しているところは、秀逸な視点だといえます。

【ネタバレあり】『エスター』(2009) もう一つのエンディングとは? 続編はある?

エスターの過去に触れるケイト:© 2009 Dark Castle Holdings, LLC.

実は、『エスター』(2009)にはもう一つの結末が存在します。

本作のDVDには、特典映像としていくつかの未公開シーンや未使用シーンが収録。

この中に、本作のもう一つのエンディングと呼ばれるシーンが収められています。

シーンは、コールマン邸の中でエスターが化粧しているところから。

真っ暗の家には、駆け付けた警官が警戒しながら中へと進んでいきます。

楽しそうに歌を歌いながら、彼女はメイクに夢中。

そして、2階から降りてきて警官たちにこう言います。

「こんにちは 私はエスターよ」

丁寧にあいさつした後、警官たちと共に家を後にするようなところで終了。

自己紹介したときの彼女の顔は笑みを浮かべながら、傷だらけの顔でした。

その前に激しく争ったであろうことが容易に想像できます。

登場人物はエスターと警官たちのみで、他の者たちは安否すらわかりません。

おそらく、ケイトたちはみな彼女に殺されたしまったのでしょう。

彼女がご機嫌なのもそれが理由のような気がします。

この"エスターの勝利”というエンディングには、救いがありません。

しかし、この結末は様々な余韻を残しているため、味わいがあるというもの。

なおかつ、きちんと物語にオチをつけています。

こうした"イフ”をチラ見せすることで、続編への期待が高まる本作。

ただ残念なことに、『エスター』(2009)には続編となる作品がありません。

今後製作される予定が発表されないまま、10年が過ぎています。

だからこそ、このアナザーエンディングは観て損はありません。

DVD版ならば、2種類の結末を知ることができるのです。

どちらも本作の結末として"アリ”ですので、両方とも視聴することをおすすめします。

『エスター』(2009)のまとめ

エスター:© 2009 Dark Castle Holdings, LLC.

今回の『エスター』(2009)という作品は、斬新な設定によって評価された作品だといえます。

エスターは、見ている者のイメージと実際がひどくかけ離れた存在です。

子供として見れば、あまりにも大人びていて、恐怖心を覚えます。

大人として見れば、大人にしては小さすぎる体に大人の思考というアンバランスさに追いつけません。

どちらの視点に立ったとしても、異様な不安定さを感じさせます。

ぼんやりとあいまいで、定義不可能なものこそが、我々における恐怖なのでしょう。

そして彼女は、その恐怖を体現した者。

結末がどう転んでも彼女が恐怖の対象でいられ続ける本作の人物設定は、流石の一言です。

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