映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)の元ネタとなる事件や作品の構造を解説【あらすじ、感想、ネタバレあり】
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1994年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを獲得して以来、映画界のトップランナーとして走り続けてきたクエンティン・タランティーノ。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)はそのタランティーノ監督の第9作目の監督作です。

タランティーノ監督は常々、監督としての映画製作は10本までとこれまで何度も発言してきました。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)が好評だった場合は、今回で引退するとも語っています。

GQオーストラリアで監督が語ったところによると、もしかしたら最後の監督作となるかもしれない『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)。

本作の時代背景や元ネタをネタバレを交えてご紹介していきます。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)の作品情報とキャスト

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作品情報

原題:Once Upon a Time in Hollywood
製作年:2019年
製作国:アメリカ
上映時間:161分
ジャンル:ドラマ、スケッチ

監督とキャスト

監督:クエンティン・タランティーノ
代表作:『パルプ・フィクション』(1994)、『イングロリアス・バスターズ』(2012)

出演:レオナルド・ディカプリオ
代表作:『タイタニック』(1997)、『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)

出演:ブラッド・ピット
代表作:『ファイト・クラブ』(1999)、『オーシャンズ11』(2001)

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)のあらすじ

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1969年のハリウッド、テレビ西部劇で一時代を気づいたリック・ダルトンは映画俳優としてキャリアを転換させようとするも、うまくいかず、役者として行き詰まっていた。

リックのスタントマンを長年にわたって務めてきたクリフ・ブースも、リックの仕事の減少とともにスタントマンの仕事がなくなってきていた。

そんなか、リックにイタリア製セブ劇のマカロニ・ウェスタンへの出演オファーがくる。

リックにしてみればマカロニ・ウェスタンの出演することは都落ち感は否めない。

自分のキャリアが終わってしまったのだと落胆する。

リックの邸宅の隣には新進気鋭の映画監督、ロマン・ポランスキーと妻で女優のシャロン・テートが引っ越してきていた。

世の中はヒッピームーブメントが最高潮に達している。

そんな彼らの周りに不穏な影が忍び寄ってくる……。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)のキャスト・登場人物を紹介

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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)はフィクションではありながら実在した人物が多く登場します。

映画の中でも主要な登場人物として描かれるシャロンテートはマーゴット・ロビーが演じてます。

マーゴット・ロビーは『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)でもレオナルド・ディカプリオと共演して一躍脚光を浴びました。

シャロン・テートという女優は、ハリウッド史上で最も陰惨な事件とも言われる、マンソン・ファミリーの襲撃事件で殺害されてしまったことで世に広く知られています。

シャロン・テート殺人事件とは

チャールズ・マンソンを教祖とするカルト宗教の信者たちが、ロマン・ポランスキーの妻であり女優のシャロン・テートとその友人を、ポランスキー邸宅で惨殺した事件。

信者たちはマンソン・ファミリーと呼ばれ、彼らはマンソンによって洗脳されていました。

ほとんどが十代の少年少女であったことも世間に衝撃を与えました。。

この事件が『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)を見る上で非常に大事な大前提となっているので、このことだけはぜひ押さえておいてほしいです。

シャロン・テート以外にも当時のハリウッドを代表するようなスターが登場しています。

シャロンテートの夫であるロマン・ポランスキーはラファル・ザビエルチャが演じました。

ロマン・ポランスキーはポーランド出身の映画監督で、第二次対戦中にユダヤ人強制収容所のゲットーに押し込まれられた過去を持っており、最愛の妻をマンソン・ファミリー殺害されたりと悲劇的な人生を送っている監督でもあります。

そんなロマン・ポランスキー監督は『戦場のピアニスト』(2002)でアカデミー監督賞を受賞するなど、映画史に燦然と輝く名匠。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)ではセリフこそありませんが、『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)で世間の注目を集める、有望株の監督として描かれています。

賛否が分かれたブルース・リーの描写

ファンの間でも賛否が分かれてるのがブルース・リーの描かれ方です。

ブルース・リーを演じたのはマイク・モーです。

マイク・モーは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)の前にはすでに、俳優として引退しており、格闘技の道場主として生活していました。

しかし、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)のオーディションでブルース・リー役を募集していると聞きつけ、俳優として復帰しました。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)で描かれるブルース・リーは尊大でとても生意気です。

求道者としてストイックなイメージが強いブルース・リーなので、この描かれ方はファンの反感をかいました。

しかし、タランティーノ監督が資料や関係者の証言を集めたところ劇中で描かれたような人物像であったそうです。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)は史実を元ネタにしている

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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)は1969年のハリウッドを舞台にしています。

1969年はアメリカ全土でヒッピームヴメントが最高潮に達していた年。

ヒッピーとは簡単に説明すると既存の権力や体制に反抗し、人間本来の自由を謳歌する人たちのことです。

世間一般のイメージだと長髪で髭面、ドラッグやフリーセックスを楽しむ集団を想像するかもしれませんが、根底にあるのは世界平和や反戦意識です。

ヒッピーが至るとことにいたのが1969年のハリウッド。

そんなご時世ですから、西部劇のスターだったリックや第2次大戦を経験したクリフは1世代前のおっさんという描かれ方になっています。

ヒッピーにとって彼らは憎むべき体制派ということになります。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)のサントラ一覧

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タランティーノ監督作品といえば毎度のことなのですが、サウンドトラックが話題になります。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)で使用されたサウンドは1960年代のヒットナンバーが多数。

使用された楽曲・挿入歌は下記の通りです。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドの挿入歌一覧

01. Roy Head & The Traits / Treat Her Right|ロイ・ヘッド & ザ・トレイツ / トリート・ハー・ライト

02. The Bob Seger System / Ramblin' Gamblin' Man|ザ・ボブ・セガール・システム / ランブリン・ガンブリン・マン

03. Deep Purple / Hush|ディープ・パープル / ハッシュ

04. Mug Root Beer Advertisement|マグ・ルート・ビア・アドヴァタイズメント

05. The Village Callers / Hector|ザ・ヴィレッジ・コーラーズ / ヘクター

06. Buchanan Brothers / Son of a Lovin' Man|ブキャナン・ブラザーズ / サン・オブ・ア・ラヴィン・マン

07. Chad & Jeremy / Paxton Quigley's Had The Course (from the MGM film Three in the Attic)|チャド & ジェレミー / パックストン・キグリーズ・ハド・ザ・コース (フロム・ザ・MGMフィルム・スリー・イン・ザ・アティック)

08. Tanya Tanning Butter Advertisement|ターニャ・タニング・バター・アドヴァタイズメント

09. Paul Revere & The Raiders / Good Thing|ポール・リヴィア & ザ・レイダーズ / グッド・シング

10. Paul Revere & The Raiders / Hungry|ポール・リヴィア & ザ・レイダーズ / ハングリー

11. The Box Tops / Choo Choo Train|ボックス・トップス / チュー・チュー・トレイン

12. Mitch Ryder & The Detroit Wheels / Jenny Take A Ride|ミッチ・ライダー & デトロイト・ホイールズ / ジェニー・テイク・ア・ライド

13. Kentucky Woman / Deep Purple|ケンタッキー・ウーマン / ディープ・パープル

14. Buffy Sainte-Marie / The Circle Game|バフィー・サンテ-マリー / ザ・サークル・ゲーム

15. Simon & Garfunkel / Mrs. Robinson|サイモン & ガーファンクル / ミセス・ロビンソン

16. Numero Uno Cologne Advertisement|ヌーメロ・ウーノ・コロン・アドヴァタイズメント

17. Los Bravos / Bring a Little Lovin'│ロス・ブラヴォス / ブリング・ア・リトル・ラヴィン

18. Suddenly , Heaven Sent Advertisement│サドゥンリー、 ヘヴン・セント・アドヴァタイズメント

19. Vagabond High School Reunion│ヴァガボンド・ハイ・スクール・リユニオン

20. KHJ Los Angeles Weather Report│ KHJ ロサンゼルス・ウェザー・リポート

21. The Illustrated Man Advertisement , Ready for Action」│ザ・イラストレイテッド・マン・アドヴァタイズメント、レディ・フォー・アクション

22. Dee Clark / Hey Little Girl│ディー・クラーク / ヘイ・リトル・ガール

23. Summer Blonde Advertisement│サマー・ブロンド・アドヴァタイズメント

24. Neil Diamond / Brother Love's Traveling Salvation Show│ニール・ダイアモンド / ブラザー・ラヴズ・トラベリング・サルヴェイション・ショー

25. Robert Corff / Don't Chase Me Around (from the MGM film GAS-S-S-S)│ロバート・コーフ / ドント・チェイス・ミー・アラウンド (フロム・ザ・MGMフィルム・GAS-S-S-S)

26. Paul Revere & The Raiders / Mr. Sun, Mr. Moon feat. Mark Lindsay│ポール・リヴィア & ザ・レイダーズ / ミスター・サン、ミスター・ムーン feat. マーク・リンゼイ

27. José Feliciano / California Dreamin'│ホセ・フェリシアーノ / 夢のカリフォルニア

28. I Cantori Moderni Di Alessandroni / Dinamite Jim (English Version)|イ・カントーリ・モデルニ・ディ・アレッサンドロニ / ダイナマイト・ジム(イングリッシュ・ヴァージョン)

29. Vanilla Fudge / You Keep Me Hangin' On (Quentin Tarantino Edit)│ヴァニラ・ファッジ / ユー・キープ・ミー・ハンギン・オン (クエンティン・タランティーノ・エディット)

30. Maurice Jarre / Miss Lily Langtry (cue from The Life and Times of Judge Roy Bean) モーリス・ジャール / ミス・リリー・ラングトリー (キュー・フロム・ザ・ライフ・アンド・タイムズ・オブ・ジャッジ・ロイ・ビーン)

31. KHJ Batman Promotion│KHJバットマン・プロモーション[/bgcolor]

使用楽曲の圧倒的な多さからもこだわりがよく分かります。

サウンドの使われ方もタランティーノ監督らしい独特な表現方法が用いられており、ほとんどの曲がカーラジオやラジオから流れてくることが印象的です。

タランティーノ監督はこの表現方法が好きなようで、監督デビュー作である『レザボア・ドッグス」(1992)の頃から度々登場します。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)で印象的に使用されていた曲がローリング・ストーンズの「Out Of Time」。

「Out Of Time」は時代遅れという意味で、日々変化するハリウッドに取り残されたリックとクリフの2人に重ねられています。

「お前はもう用済み」と歌われる「Out Of Time」が2人を突き放すのではなく、寄り添うようにかかるのが、なんとも心地よいです。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)の解説・感想【ネタバレあり】

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特殊な映画構造「スケッチ」

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)には普通の映画のようにストーリーがありません。

起承転結で、三幕構造になっているという、多くのハリウッド映画でみられる脚本システムをとっていないのです。

日常をただただ描写していくだけののスケッチになっており、物語はないのです。

スケッチ的な描き方が特に顕著なのがシャロン・テートのシーン。

シャロン・テートが買い物に行ったり映画を観に行ったりと本筋にはあまり関係のないことが単発的に描かれているのですが、これにはタランティーノ監督なりの理屈があります。

シャロン・テートという女優は殺害事件の印象しかなく、世間の人は事件のことでしか彼女を認識していません。

タランティーノ監督はシャロン・テートという女優が確かに存在していて、1人の人間として日々の営みををしていたことを、世間に知ってもらいたくてシャロンの日常をあえて描きました。

脚本執筆の段階ではストーリーらしきものはあったらしいのですが、脚本を書き進めていくなかでストーリーはいらないと判断したと、インタビューでタランティーノ監督が語っています。

ヒッピームーブメント・時代の終わり

1969年という年はヒッピームーブメントが終わったと言われる年であります。

自由と平和を謳っていたヒッピーであるマンソン・ファミリーによってシャロン・テートが殺害されたことによって、世の中がヒッピーに疑念を抱き、ムーブメントの波が一気に引いていきました。

日本でいうところの、連合赤軍のあさま山荘事件によって学生運動が下火になったことと似ています。

シャロン・テート襲撃事件後のハリウッドでは、アメリカン・ニューシネマ運動が起きました。

アメリカン・ニューシネマとは、ハッピーエンドで終わらない従来のハリウッド映画とは真逆の、現実に即した映画群のことです。

1969年以降のハリウッドはお花畑的なファンタジーの世界から、悲惨な現実を描いた作品が多くなっていくのです。

1969年は人類史的にも映画史的にも重要な年なのです。

歴史改変

タランティーノ監督の過去作『イングロリアス・バスターズ』(2009)や『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)で大胆な歴史改変をしたように、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でも歴史が変わりました。

シャロン・テート宅を襲撃するはずだったマンソンファミリーはリック宅を襲撃し、返り討ちにあいます。

クリフによってボコボコに惨殺されるマンソン・ファミリーの姿を見て、身体中にものすごい量のカタルシスが駆け巡る。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のクライマックスは惨い描写にも関わらず、スポーツ観戦のような盛り上がりが体感できます。

タランティーノ監督がなぜ歴史を改変したかというと、やっぱりマンソン・ファミリーをどうしても許せなかったのでしょう。

ハリウッドで幼少期を過ごしたタランティーノ監督にとって、ヒッピームーブメントを汚したマンソン一味の凶行はとてもショッキングな出来事でした。

事件後、マンソン・ファミリーは収監されたものの死刑は免れます。

タランティーノ監督は映画の中だけでも復讐したかったのです。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)の主題

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「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」は「むかしむかし、ハリウッドで」という意味です。

「むかしむかし」で始まるお話は、ハッピーエンドで終わらなけらばなりません。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)もおとぎ話なのです。

映画の世界の中だけでもシャロン・テートを救いたい、そんな思いが映画に流れています。

本作の主題はシャロン・テートを救うことです。

それはタランティーノ監督の愛した1969年以降のハリウッド作品が生まれないことよりも大事なことだと考えました。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)のまとめ

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大胆な歴史改変が注目される『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)ですが、ディティール部分を楽しむのが本作の醍醐味でもあります。

1969年の空気感を体験できるのが楽しみの1つです。

当時の映画や音楽、そしてファッションなどについて調べてみるのも『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)の楽しみ方でもあります。

一度ならず、二度三度みることによって新たな発見がある、遊び心に溢れる映画になっています。

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