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アメリカン・ビューティー_感想・考察

『アメリカン・ビューティー』(1999)は、アメリカの中流家庭の崩壊を描いた作品です。

第72回アカデミー作品賞・監督賞・主演男優賞・脚本賞・撮影賞の5部門を受賞しました。

外側から見れば絵に描いたような幸せいっぱいの家族が、それぞれが抱えた問題によって、やがて崩壊していく様は人々の心を掴みました。

難解な映画ではありませんが、アメリカの闇を扱った作品なので、一部の人からは"理解できない"という声も聞こえてきます。

本作が表す"アメリカが抱える闇"とはどのようなものでしょうか。

以下ネタバレを含めて解説していきます。

目次

『アメリカン・ビューティー』(1999)の作品情報とキャスト


アメリカン・ビューティ(吹替版)

『アメリカン・ビューティー』(1999)の作品情報

原題:American Beauty
製作年:1999
製作国:アメリカ
上映時間:117
ジャンル:ドラマ

『アメリカン・ビューティー』(1999)の監督・キャスト

監督:サム・メンデス
代表作:『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(2008)『1917 命をかけた伝令』(2019)

出演者:ケヴィン・スペイシー
代表作:『ベイビー・ドライバー』(2017)『ユージュアル・サスペクツ』(1995)

出演者:アネット・ベニング
代表作:『リヴァプール、最後の恋』(2017)『20センチュリー・ウーマン』(2016

出演者:ソーラ・バーチ
代表作:『ゴーストワールド』(2001)『穴』(2001)

出演者:ウェス・ベントリー
代表作:『サハラに舞う羽根』(2002)『パーフェクト・メモリー』(2015

出演者:ミーナ・スヴァーリ
代表作:『アメリカン・パイ』(1999)

出演者:クリス・クーパー
代表作:『アダプテーション』(2002)『ライ麦畑で出会ったら』(2015)

『アメリカン・ビューティー』(1999)のあらすじ

© 1999 - Dreamworks

うだつの上がらない中年サラリーマンのレスターは、不動産業を営む野心家の妻キャロリンと、高校生で反抗期の娘ジェーンとの3人家族。

レスターは妻にも娘にも相手にされておらず、家庭内は冷え切っており、会話らしい会話もない。

ある日レスターは、長く勤めた会社をリストラされるが、それを機に決断力も男らしさもなかった男が徐々に変わり始める

娘ジェーンの友達のアンジェラに恋をし、体を鍛え、隣人の陸軍大佐の息子リッキーから買ったマリファナを吸い、派手な車を買い、妻のキャロラインに口答えをするようになる。

今までの自分と決別して、生まれ変わろうとするレスターに、ある悲劇が起こる。

『アメリカン・ビューティー』(1999)の感想と考察

© 1999 - Dreamworks

『アメリカン・ビューティー』(1999)の感想

『アメリカン・ビューティー』(1999)の率直な感想を執筆していきます。

本作は、ある中流家庭の崩壊をレスター・バーナムという冴えない中年男性を中心に描いた作品です。

筆者は主役であるレスターには、死の直前まで同情できませんでした。

なぜなら彼は流されるまま生きてきた人間だからです。

妻にも娘にも相手にされなかったから受け身な人生になったのではなく、たくさんの選択肢を自分で捨ててきた結果だと思ったからです。

それに娘の友達に恋をするなんて、考えただけでもぞっとします。

レスターを好きになれなかったからこそ、彼が最後に気づく本当の幸せが真に胸に迫り、束の間でも本来の彼を見ることができたことによって、不安や不快感が一気に昇華されていくのです。

皮肉たっぷりの悲しいラストでしたが、"本当の幸せ"や"美"とは何か考えさせられました。

前半はコミカルで、喜劇と悲劇は表裏一体だと思わせられる脚本や、家族3人で囲む、あたたかいはずの食卓を、あえて離れて映すカメラワーク、音楽を効果的に使ってレスターやキャロリンの心情を映し出す本作は、アカデミー作品賞受賞も納得の完成度です。

『アメリカン・ビューティー』(1999)の考察

 

筆者が『アメリカン・ビューティー』(1999)を鑑賞して気になった点をを考察していきたいと思います。

本作はアメリカの様々な問題をとり上げた作品です。

以下にまとめてみました。

本作が描き出すアメリカが抱える問題

・LGBTQ問題

・銃社会

・麻薬

・家庭内暴力

"銃社会でなければ"、"LGBTQに寛容な国であれば"、など考えさせられる作品です。

この問題は、執筆時点の2020年でもアメリカで問題視されており、根深い問題であることが分かります。

【ネタバレあり】『アメリカン・ビューティー』(1999)の疑問やトリビアを解説

© 1999 - Dreamworks

『アメリカン・ビューティー』(1999)の解説①:レスターがアンジェラに恋するのはなぜ?

『アメリカン・ビューティー』(1999)の疑問を1つずつ紐解きながら解説していきます。

1つ目の疑問:なぜレスターがアンジェラに恋するのかを解説していきます。

レスターは、娘のジェーンのチアリーディングを見に行くことを妻に強要され、しぶしぶ見に行きますが、そこでジェーンの友達のアンジェラに出会い、一目ぼれするのです。

その後は勝手に娘のアドレス帳を盗み見てアンジェラに電話してみたり、アンジェラの言葉を聞いて体を鍛えたり、アンジェラと結ばれるために涙ぐましい努力を続けます。

妻もいて、娘の友達と......というところが大変不愉快ですが、本人は目標に向かってまっしぐら。

これこそがレスターが恋した理由だと思います。

良くも悪くも一生懸命なレスターは、アンジェラに恋したことで新しい自分に生まれ変わることができたのです。

『アメリカン・ビューティー』(1999)の解説②:バラが持つ意味とは?

2つ目の疑問:バラが持つ意味を解説していきます。

本作ではバラが意図的に使われています。

赤いバラは「愛」と「官能」の象徴です。

妻のキャロリンは、毎朝庭のバラを手入れしており、家の至る所にバラを生けています。

バラは、自分の理想とする家庭であるためのアイテムであり、本来目を向けるべき家族には表向きにしか関心を寄せていません。

家庭の中ではなく、外からどう見られるかということこそがキャロリンが最も気にかけているところなのです。

そして、レスターがアンジェラを妄想するシーンでは必ずバラが出てきます。

赤いバラに囲まれて幸せそうに妄想するシーンでは、この後にレスターの身に起きるできごとを表しているように思います。

『アメリカン・ビューティー』(1999)の解説③:タイトルが持つ意味とは?

© 1999 - Dreamworks

3つ目の疑問:タイトルが持つ意味を解説していきます。

「アメリカン・ビューティー」は「アメリカの美」という意味です。

バラが美しく咲く大きな庭、完璧な妻がいて、可愛い娘もいる。

妻は仲の良い幸せな家庭を築いている風に装い、隣人にアピールをしているが、そこにあるのは、互いに干渉することもなく、無関心な冷え切った家庭

本作では、外から見た美「アメリカン・ビューティー」と、その内面にあるギャップを映し出しています。

『アメリカン・ビューティー』(1999)の解説④:ナチスのお皿を見られて激怒した理由

4つ目の疑問:ナチスのお皿を見られて激怒した理由を解説していきます。

隣人の元軍隊のフランク・フィッツは、自分が大切にしているナチスのお皿を、息子が触ったことに気づき激怒します。

割れたわけでもなく、元に戻されていたのになぜそこまで怒る必要があったのでしょうか。

理由は、フランクは隠れゲイであり、戸棚に隠されたお皿は、彼がクローゼットに入っていること(カミングアウトしていないこと)を表しているからだということが考えられます。

妻もいて、子どももいる元軍人は、自分のセクシャリティを受け入れることが出来ず苦しんでいたのではないでしょうか。

隣人のゲイカップルを罵ったり、自分を偽り続ける人生が、フランクが体現する「アメリカン・ビューティー」なのだと思います。

【ネタバレあり】『アメリカン・ビューティー』(1999)の最後は? ラストシーンや結末を解説

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残りの人生の最初の一日

ラストシーンでは、どのような展開になっていくのでしょうか?

登場人物ごとにストーリーを追っていきたいと思います。

レスターの残りの人生の最初の一日が始まり、ラストに向け、家族それぞれの物語が一気に一つに向かっていきます。

ジェーンはアンジェラが父と寝ようとしたことに激怒し、アンジェラに罵声を浴びせ、リッキーと共に家を出ることを決意

アンジェラは言葉では偉そうなことを言っていますが、本当は自分に自信がなく、リッキーやジェーンに言われた言葉に深く傷つき、落ち込みます。

そんなアンジェラに寄り添い慰めるレスター。

二人の心が近づき、いよいよ憧れの女性アンジェラと結ばれようとしたとき、アンジェラから"実は処女なの"という告白を受けます。

それを聞いたレスターは、目の前にいる女性は憧れの女性ではなく、ただのか弱い少女なんだと気が付きます。

レスターはアンジェラに服を着せ、父親のように安心させるのです。

アンジェラからジェーンは恋をしていて幸せだと聞かされたレスターは、喜びで顔をほころばせ、その後アンジェラから「あなたは幸せ?」と聞かれて、自分でも驚きつつも「とても幸せだ」と答えます。

一人になったレスターは、幸せだったころの家族写真を手に取り、キャロリンと出会ったとき、ジェーンが生まれたとき、ささやかだけど幸せで満ちていた日々を思い出します

とりつかれたように変化を求めた男は、今、目の前にある幸せに気が付いたのです。

妻キャロリンの思い

『アメリカン・ビューティー』(1999)では、オープニングで主人公であるレスターが死ぬことは観客に知らされています。

誰がなぜ殺したかは、話を追っていかなければならないように作られています。

殺害の動機があるのはキャロリンだと思った人もいたのではないでしょうか。

キャロリンは不動産王と不倫していますが、ある日それをレスターに知られてしまいます。

彼女は夫をバカにし、虐げることで家庭で女王のようにふるまうことが出来ていましたが、不倫という弱みを見せてしまったことで立場が逆転することを恐れたのです。

彼女は「犠牲者にはならない」と言いながら何かを決意し、銃を手に取りレスターがいるわが家へ帰ります。

帰宅した彼女を待ち受けていたのはレスターの死。

取り乱した彼女は、用意していた銃を隠そうとクローゼットに向かいます。

クローゼットでレスターのシャツに囲まれていることに気づいたキャロリンは、なくしていたと思っていたレスターへの愛に気づき、彼を失った悲しさに、ただただ涙するのです。

隣人フランクの思い

レスターの隣人フランクには殺害の動機はあるでしょうか?

隠れゲイである彼は、息子が自分のようにならないよう厳しくしつけをしてきました。

しかしある日、レスターとリッキーが性的な行為に及んでいるところを目撃してしまいます。

実際は見間違いでしたが、フランクは息子もゲイだと思ったのでしょう。

激しく怒り、息子を殴って家から追い出します。

そして、本当の自分にはっきり気づくのです。

フランクは自分の気持ちを抑えることができず、土砂降りの中、レスターのもとへ向かいます。

ずぶ濡れで現れたフランクは、レスターから「風邪をひくから服を脱いで」と言われます。

誘われていると思ったフランクは困惑しつつ、今まで本当の自分を隠してきたという苦悩がすべてあふれ出て、レスターにキスをしてしまうのです。

レスターは驚いて、自分はゲイではないことをやんわりと伝えます。

フランクは自分の行為を恥じ、隠してきた秘密を知られたためにレスターを銃で殺害するのです。

皮肉なことに、レスターは本当の幸せに気づいた直後に殺害されるのです。

【レビュー】『アメリカン・ビューティー』(1999)の楽曲を解説

© 1999 - Dreamworks

『アメリカン・ビューティー』(1999)では、音楽がレスターの変化や、冷めた家庭を表すアイテムとなっています。

どのシーンでどのような楽曲が使われているのでしょうか。

本作で最初に音楽が話題で出てくるのは、家族3人で食卓を囲むシーンです。

キャンドルが灯された重苦しい雰囲気の食卓で流れる音楽は、ペギー・リーの"バリ・ハイ"。

ジェーンはキャロリンに「この曲やめてよ」と言うのですが、「それならあなたが料理しなさい」と取り合いません。

キャロリンがこの家を、自分がすべて取り仕切って思い通りにしようとしていることがわかるシーンです。

また、冒頭で自身の事を"ほとんど死んでいる"と形容していたレスターが、自分を取り戻したときに聞く曲は、ザ・フーの" The Seeker"など、彼の青春時代である70年代の音楽です。

そして作中でリッキーがジェーンに見せる"一番美しい映像"で流れる音楽はこちらです!

トーマス・ニューマンのスコアサウンド"American Beauty"

筆者が一番印象的だと思った音楽は、エンドロールで流れる、エリオット・スミスがカバーしたビートルズの"Because"です。

とても短い、詩のような楽曲です。

歌詞を調べるとレスターの心情にぴったり合うことに驚きました。

以下歌詞翻訳サイトからの引用です。

Because 和訳
世界が回るから、僕はうっとりしてしまう
世界が回るのだから風が強いから、僕の心まで吹き飛ばす
こんなにも風が強いから愛は古く、愛は新しい
愛はすべてで、愛は君さ空が青いから、僕は泣いてしまう
空がこんなにも青いから

ラストでレスターが空から自分の街を見下ろし、過去や愛する者に思いをはせるシーンで出てくる印象的なセリフが歌詞とぴったり合うように思います。

美しいものがありすぎると圧倒され、僕の心は風船のように破裂しそうになる

【レビュー】『アメリカン・ビューティー』(1999)の評価・評判

© 1999 - Dreamworks

【つまらない?】低評価のレビュー

『アメリカン・ビューティー』(1999)は、アカデミー主要部門を受賞するなど、評価の高い作品で知られています。

しかし、様々な象徴が散りばめられている本作は、意味が分からないといった声も聞こえてきます。

本項では低評価のレビューをまとめてみました。

低評価のレビュー

・全編通して退屈だった

・アメリカ人にしか理解できない

・ただ不幸になっていく家族を見ているだけの映画

圧倒的に理解できないといった声が多かったです。

確かに本作は、登場人物に感情移入することが難しい作品だと思います。

レスターは娘の友達と寝ようとするし、妻は不倫しているし、隣人はゲイで、その息子は麻薬の売人、といった本作の登場人物は、日本で生まれ育った人には受け付けない人もいると思います。

しかし本作のテーマは"本当の幸せ"です。

人種は関係なく、すべての人に共通した問題ではないでしょうか。

そこにある"幸せ"に気づかない人々を強烈に皮肉った作品ですし、あまりにも悲しいラストなので目を背けたくなる気持ちは分かります。

しかし、そこで目を背けると、自分も死ぬまで"幸せ"や"美しいもの"に気づけない人生になるように思えるのです。

【面白い?】高評価のレビュー

『アメリカン・ビューティー』(1999)は、アカデミー主要部門を受賞しただけあって、大変評価の高い作品です。

興行収入は『羊たちの沈黙』(1990)と同じ1億3千万ドルと、地味な作品ながら、かなりの動員数であったことが分かります。

各レビューサイトの点数や、感想を以下にまとめてみました。

レビューサイト評価 2020年4月8日時点

・Filmarks 3.7点

・Yahoo!映画 3.78点

・映画.com 3.6点

レビューサイトでの意見

"いい意味で、どこまでも滑稽で、皮肉満載"

"20年ぶりにみてもやっぱり面白かった! "

"ケヴィン・スペイシーの表情の変化はこの作品に欠かせなかった"

"解放された欲が終盤に向けて収束されるのにそのオチとは! "

上記のように、演技力に関するものや、皮肉をおもしろがる声が多かったです。

本作でアカデミー主演男優賞を受賞したケヴィン・スペイシーの演技は見事でした。

子どもじみたつまらない男の顔から、ラストで見せる優しい表情まで、この作品の勝因は彼の演技にあったといっても過言ではありません。

もちろん向上心の塊で、神経質な妻キャロリンを演じたアネット・ベニングも素晴らしかったです!

『アメリカン・ビューティー』(1999)のまとめ

© 1999 - Dreamworks

『アメリカン・ビューティー』(1999)は、名作だと断言できます。

サム・メンデス監督の初監督作品ということですが、その才能は恐るべきものです。

1999年に作られた作品でありながら、現代社会にも通じる問題が散りばめられており、私たちに訴えかけてくるような作品です。

映画が好きな人は、ビニール袋が舞っているところを見たら確実に本作を思い出すでしょう。

 

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