
有川浩さん原作の同名小説を映画化した『旅猫リポート』(2018)。
動物と心を通わせることの価値や、「青年は一生を通じて後世に何を残せるのか」ということを気づかせてくれます。
感動する声も多く見受けられた本作について考察していきます。
目次
『旅猫リポート』(2018)の作品情報とキャスト
作品情報
原題:旅猫リポート
公開年:2018年
製作国:日本
上映時間:118分
ジャンル:ドラマ
『旅猫リポート』(2018)は、有川浩による長編小説。2012年11月には単行本が発行され、34回吉川英治文学新人賞を初めとして数多くの賞にノミネートされる評価の高い作品です。
監督とキャスト
監督:三木康一郎
代表作:『リベンジgirl』『トリハダ 劇場版』
出演者:福士蒼汰(サトル/宮脇 悟)
出演者:高畑充希(ナナ)
酒店者:広瀬アリス(チカコ)
出演者:大野拓朗(スギ)
原作・脚本:有川浩
『旅猫リポート』(2018)のあらすじ

サトルとナナ:©2018「旅猫リポート」製作委員会 ©有川浩/講談社
猫好きの青年・悟は、毎日餌をあげている野良猫がいた。
事情があって猫は飼えないが、猫と触れ合うことができる時間は悟にとって至福のもの。
そんなある日、野良猫が交通事故に遭って倒れているところを発見する。
悟の努力によって一命を取り止めた野良猫は、ナナと名付けられ悟と共に幸せな毎日を送る。
しかし、ある事情からナナを手放さなくてはならなくなった悟。
ナナの新たな飼い主のためにこれまでの友人や恋人の元を訪ねる旅に出るが……。
『旅猫リポート』(2018)の3つの見どころ

ナナと戯れるサトル:©2018「旅猫リポート」製作委員会 ©有川浩/講談社
見どころ①:青年の一生を描く
『旅猫リポート』(2018)で描かれているのは、悟の一生。
幼い頃から無類の猫好きである悟が拾った野良猫「ナナ」を手放すという出来事をきっかけに悟が小中高の親友の元を訪ねていく過程で、彼が築いてきた人生を垣間見ることができます。
見どころ②:猫に癒される
『旅猫リポート』(2018)を楽しむにあたっての絶対条件は猫好きであること。
猫のアップシーンも多く、細かい動きや小憎たらしさも描いていて猫好きにはたまらない映画になっています。
見どころ③:人との繋がりを描く
悟の人生を猫との思い出とともに振り返るストーリー。悟の人生にはいつも猫が居て、苦楽を共にしてきた家族のような存在。
猫の里親を探しというストーリーを猫が繋いでくれた人間関係を思い出とともに描くことで、人間が生きる意味や幸せとは何かということについて考えさせられます。
【ネタバレあり】『旅猫リポート』(2018)の考察と感想

ナナを撫でるサトルとノリコ:©2018「旅猫リポート」製作委員会 ©有川浩/講談社
見どころを踏まえた上で『旅猫リポート』(2018)の考察と感想を書いていきます。
本作は共感し、感動できる点も多かったのですが、それ以上に描くことが非常に難しいテーマでもあるのではないかと考えさせられました。
理由についてネタバレを交えて書いていきます。
猫と人間の愛について考察
猫や犬といった動物に対して、人はどのような印象を持っているでしょうか。
「ペット」「可愛い」「怖い」など色々あるかとは思いますが、『旅猫リポート』(2018)で一貫しているメッセージが飼っている生き物は家族ということ。
悟の人生を紐解いていくと、悟は小学校時代に両親を亡くし、判事として働いている叔母・法子に引き取られ成長していきます。
法子の仕事の都合によって当時の愛猫であるハチと離れてしまうことになるのですが、両親を失った悟にとっての唯一の家族という要素を与えることで猫の持つ絆や愛がより深いものとして、自然に受け入れる事ができます。
ここで現実的な話をするとペットは必ずしも人生において必要なものではありません。
当然ながら寿命が人間よりも短いため、必ず別れる日が来ます。
だからこそ感情移入しやすい設定作りを徹底。
悟の境遇について迫っていくと、重要なメッセージとして盛り込まれているのは猫が家族というものだけではありませんでした。
実は悟は捨て子で、育ててくれた両親と血縁関係にはないという事実を法子から聞かされます。
完全に実の両親だと信じていた悟はショックを受けるのではなく、「自分はとても幸運な人生だった」と考えます。
『旅猫リポート』(2018)を通じて考えたことは、愛とは血縁関係や人間や猫といった種族の壁をも超えるものだということです。
血縁関係が無いにも関わらず実の家族同然に育ててくれた悟の両親。
ペットとの絆というメッセージにとどまらず、さらに引き取り手が居ない悟を無償の愛で育ててきた法子という物語の展開が琴線に触れました。
終始救いのない話
無類の猫好きである悟が、愛猫のナナを譲る理由は自身の死期が近いからでした。
物語が進むにつれて、悟があらゆるものに感謝したり、犬から先が短い匂いがすると指摘されたり…。
観ている最中に少しずつ感じてきた違和感が遂に確信に変わります。
最初から最後まで容体が良くなることはなく、ひたすら悪化していき、最後は叔母さんとナナに見守られながら息を引き取るという顛末。
これだけの話を見せられると、映画の醍醐味ともいえる一発逆転を期待しますが、競うもない展開にひたすら暗い気持ちになりました。
白血病やHIVといった治療が困難な難病。
いくら技術が進歩してきたとはいえ、明確な治療法が無い病があることは十分理解しています。
ただでさえ世の中には暗い出来事が蔓延しているので、フィクションの世界では多少の強引さがあっても奇跡が観たいと思います。
人間として何を残せるのか?
バッドエンディングは個人的に好きではないのですが、最後のシーンのメッセージには共感しました。
それは悟の死後、叔母さんの家に小中高の友人が集まり、悟の思い出話に花を咲かせる場面。
>この世に居なくなっても思い出してくれる人、困った時に頼りにできる友人がいることは何にも代えがたい大切なものといえます。
さらに友人は、最後まで思い出話をしてくれる友人や今生の別れに涙してくれる。
そんな唯一無二の友人を作ることができれば、それは幸せな人生だったといえるのではないでしょうか。
ありきたりかもしれませんが、人と人との繋がりは代替不可能な唯一無二のものです。
本作の描くメッセージは、最近、友人と連絡してないことや家族に感謝を伝えていない自分を投影して鑑賞することができました。
『旅猫リポート』(2018)の評価

サトルを見送るコースケ:©2018「旅猫リポート」製作委員会 ©有川浩/講談社
『旅猫リポート』(2018)の冒頭は、夏目漱石の引用から始まるように猫目線で描かれる場面が多い映画でもあります。
そのため終始、動物が人間の意思を持っているかのように心情や会話を描くのは声優によるナレーションがあり、映画として難しいように思いました。
具体的な理由を2つ上げていきます。
低評価の理由①:ペットを通じた人間関係の構築
猫を通じて友達を増やしたり、猫を通じて友達との思い出を作ったりする話として展開しますが、前述の通りペットはそもそも、人間にとって必要不可欠なものではなく、飼ってない人も大勢います。
ペットのために尽くし、ペットに頼らないと生きていけないほど傾倒してしまうとそれは絆と呼べる美しいものでは無いように思えました。
低評価の理由②:動物へのナレーション
猫を達観していて、人間を客観視している動物として描いていますが、当然、猫には人間と同様の思考レベルはありません。
本作で、野良猫だったナナが悟に飼われて幸せだったとするナレーションが行われていますが、本当にそうでしょうか。
猫や犬といった動物は社会的動物であり、古くから人間と共に生活を共にしてきたという歴史的背景はありますが、野良より飼われる方が幸せという理由にはなりません。
本来、野生で生きられる動物を人間の管理下で檻や柵に閉じ込め、行動範囲や食事を制限し、野生で生きていく生存能力を奪う。
その上、「猫がこう思っていたらいいなぁ…。」という願望を抱き、ナレーションとして吹き込むことは非常に利己的とも考えられます。
『旅猫リポート』(2018)のまとめ

映画ポスター:©2018「旅猫リポート」製作委員会 ©有川浩/講談社
今回は猫好きによる猫好きのための映画『旅猫リポート』(2018)の感想を書いていきました。
動物の感情は実際に測れるものでは無いので、動物にナレーションを入れる映画はやはり難しいと思います。
しかし、人生における重要な要素には共感できる部分もありました。
猫好きな方は感情移入しやすい作品になっていると思いますので、確認してみてください。
『旅猫リポート』を観た人におすすめの作品
本作を鑑賞した人におすすめの作品をご紹介したいと思います。
僕のワンダフル・ライフ
一匹の犬が寿命を迎えるたびに生まれ変わるストーリー。
愛する飼い主に再び出会うために、奔走するワンちゃんの行動に感動です。